本研究の目的は、「どのタンパク質にどの金属イオンが結合しているか」を計測できるポリアクリルアミドゲル電気泳動法(PAGE)を開発することである。前年度までにPAGE用金属検出蛍光プローブを開発することで、pptレベルの超微量金属イオン(特にCuとFe)の分離検出法を構築してきた。さらに、ブルーネイティブ(BN)-PAGEによるタンパク質分離(一次元目)後に、ゲル分画中のCu検出PAGE(二次元目)を行い、二次元マップの作成に成功している。しかし、詳細な調査の結果、ゲル内には平均7.5 ppbの汚染Cuが存在していた。この汚染の原因は,モノマー中に存在する汚染と,泳動液から電気泳動的に金属イオンがゲル内へ供給されるためである.この状態では,目的金属の検出の妨げになり,タンパク質との結合による誤検出や,金属イオンの解離を引き起こす可能性が高く、タンパク質結合型Cuを正確に検出することは不可能であった。 そこで本年度は、ゲル分離場から汚染銅イオンを化学的に除去・抑制する新規PAGE,汚染金属イオンスウィーピング法(MICS法)を開発した。MICS法は、上層泳動液に安定な陽イオン性錯体を,下層およびゲル中には安定な陰イオン性錯体を形成するキレート剤を添加し、ゲルを電気泳動的にコンディショニングする。これにより、汚染金属は負極と正極方向へタンパク質よりも速く泳動し、汚染金属のないゲルが作成されると共に、試料とも接触することがない。このMICS-BN-PAGE法によって,汚染Cuを 17 ppt 以下に抑制できた。そこでヒト血清試料を用いてタンパク質-Cu二次元マップを作成した。その結果、主要銅結合性タンパク質であるセルロプラスミン (Cp) 分画だけでなく、他のタンパク質分画からも銅イオンを検出することに成功し、本法が血清中銅イオンの分布を測定する方法として有用であることを示した。
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