本研究は、燃料電池内の電解質膜の反応挙動と発電性能や劣化挙動との関係について明らかにすることを目的としており、顕微ラマン分光測定を用いて作動中の燃料電池中の電解質膜の膜断面方向マッピングの分光分析を行うことで様々な発電条件と電解質膜中の含水量の分布状態との関係について検討を行った。燃料電池の発電特性の向上のために23年度に作製した顕微ラマン分光測定によるin-situ測定用の燃料電池セルの改良を行い、膜電極接合体(MEA)の電解質膜のイオン交換容量(IEC)や膜厚の影響を調べるために新たな電解質膜(NRE211およびAquivion)を用いて測定を行った。顕微ラマン分光法による電解質膜内のin-situ測定の結果、イオン交換容量よりも電解質膜の分子構造や相分離構造の方の違い(パーフルオロスルホン酸膜と炭化水素系電解質膜の違い)の方が発電中の電解質膜中の含水量分布に大きな影響を与えることが明らかとなった。また、同じ電解質膜であっても膜厚の違いにより挙動が異なることが分かった。さらに、電解質膜中における生成水の逆拡散と電気浸透水の挙動が膜中の水分布に大きく影響すること知られていることから、膜中の水の拡散による水分布、およびH+移動に伴う電気浸透による水分布についても測定を行った。得られた水分布の測定より、発電中の電解質膜内の水分布はanode-cathode間の含水量の差による膜中の水の拡散だけでなく、電気浸透水による影響も大きく受け、また電気浸透水の挙動は電解質膜により異なることが明らかとなった。 今回得られたラマン分光測定の結果により、電解質膜の各特性がMEAの反応挙動に与える影響についての知見が得られた。これらの結果は、セルの作動条件の最適化や新規材料の電解質膜の開発のための指針となると考えられる。
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