研究課題/領域番号 |
23750084
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研究機関 | 奈良教育大学 |
研究代表者 |
堀田 弘樹 奈良教育大学, 教育学部, 准教授 (80397603)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 平面リン脂質膜 / DMPC / コレステロール / 抗菌剤 / グラミシジンS改変体 |
研究概要 |
本研究は、ガラス薄板上にリン脂質膜を固定化し、その脂質膜のみを光励起・蛍光観察する事が出来る光導波路蛍光顕微鏡システムを開発することを目的としている。昨年度は、(1)従来型セルの改良検討(ハード面)、(2)コレステロールを含む平面リン脂質膜(構成リン脂質:1,2-Dimyristoylphosphatidylcholine, DMPC, C14 の飽和脂肪酸をもつ中性リン脂質)の作製(ソフト面)、さらには、(3)抗菌剤によるリン脂質膜の破壊反応の観察を行った。以下にその詳細を示す。(1) 従来から使用してきた測定セルは、送液に伴い若干の液漏れがみられ、1時間を超える長時間の測定で乱れが観察される、特に送液時に膜が乱れるなどの問題があり、再現性よく繰り返し実験を行うことが困難であった。そのため液漏れをより起こしにくいセル構造を考え、その作製を行った。液漏れ防止を最優先にしたセル構造を検討した結果、20倍を超える高倍率の対物レンズでは観察が出来ない構造ではあるが、液漏れが起こらないものが完成した。(2) これまでDMPCのみで構成された膜の作製を行ってきたが、コレステロールを添加した膜の作製を行った。一般的にコレステロールはリン脂質膜の構造をより強固にすることが知られており、本研究においても膜の構造をより安定に保持するのに重要な役割を果たすと考えられる。(3) 作製できたリン脂質膜に対して、膜作動性抗菌剤として作用するグラミシジンS改変体(3種類)を添加し、リン脂質膜が破壊される反応の観察を行った。一般的な中性界面活性剤を含むコントロール実験の結果も合わせて、大腸菌などを用いた細菌生存試験で得られたデータと一致する結果が得られ、手法の正当性が確認出来たと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下に上述の概要に示した3項目、(1)セルの改良、(2)脂質膜の作製、(3)抗菌剤の活性評価について、その達成度を記す。(1) 液漏れを起こさないことを最優先にした測定セルの作製が出来、今後より再現性の高い実験が行える準備が出来た。(2) コレステロールを含むリン脂質(DMPC)ベシクルを超音波法にて作製した。そのベシクル溶液をベシクルフュージョン法によりガラス薄板(導波層)上に展開した。この方法にてガラス薄板上に平面リン脂質膜を作製することが出来た。(3) 細胞膜を破壊することで効果を発揮する"膜作動性抗菌剤"として知られているグラミシジンSとその改変体(2種類)を用いて、ガラス薄板上に作製したリン脂質膜の破壊作用を観察した。その結果は、大腸菌などを用いた細菌生存試験で得られたデータと一致する結果であった。 以上の結果から、本研究システムを用いた脂質膜観察の有用性が示されたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度、脂質膜にコレステロールを添加することに成功したが、当初の予定の通り、負電荷を持つ酸性リン脂質であるDPPS(1,2-dipalmitoylphosphatidylserine)や、正電荷を持つ塩基性リン脂質であるホスファチジルグリセロールなどを用いて、脂質膜自身に電荷を持たせる実験を行っていく予定である。グラミシジン誘導体と脂質膜との間の静電相互作用が、膜破壊に及ぼす効果を評価することが目的である。脂質構成分子を変えることで、ベシクル作製の条件(超音波ホモジナイザの運転条件)や、ベシクルフュージョンにより作製した膜の安定性が変わってくることが容易に予想され、その条件最適化を行っていく必要がある。昨年度行ったセルの改良により実験結果の再現性が向上することが期待され、これまで以上に繰り返し実験の回数を増やして、実験結果の精度を高めていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
緑色レーザーを購入する予定である。それ以外では、リン脂質や蛍光色素などの試薬類の購入、ガラス器具、光学部品などの消耗品の購入が中心である。
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