最終年度(24年度)には、平面脂質膜に添加するコレステロール量の変化と、作製した平面脂質膜に対する3種類のグラミシジンS改変体による膜破壊作用の観察を行った。これらを含め、本研究期間(23、24年度)を通した研究成果を以下に示す。 ①顕微鏡観察用フローセルの改良検討・・・液漏れ防止を最優先にした測定セルの改良が出来、再現性の高い実験が行える様になった。 ②コレステロールを含む平面リン脂質膜(構成リン脂質:DMPC)を、ベシクルフュージョン法によりガラス表面に作製した。コレステロール濃度を0~50mol%まで変化させた膜の作製に成功した(それ以上の高濃度では膜を形成しなかった)。 ③細胞膜を破壊することで効果を発揮する“膜作動性抗菌剤”として知られているグラミシジンS(GS)と、その2つあるフェニルアラニン残基をチロシンに置き換えた水溶性改変体(TyrGS)、同じくアラニンに置き換えた改変体(AlaGS)を用いて、上述②の平面脂質膜が破壊される様子を蛍光顕微鏡下で観察した。なお、膜の可視化には、疎水性環境下でのみ蛍光発光を行う環境応答性蛍光色素であるNBD(nitrobenzofurazan)誘導体を用いた。すなわち、脂質膜形成時には、色素が脂質膜内に分配し蛍光発光が観察されるが、膜の破壊に伴い蛍光強度の減衰が観察される。GSとTyrGSは、共に強い膜破壊活性を示し、膜破壊を起こす事が知られる界面活性剤であるTritonX-100と同等の結果が得られた。一方で、AlaGSでは、その様な膜破壊はほとんど観察されず、ブランク溶液送液時とほぼ同等の傾向を示した。以上の結果は、大腸菌などを用いた細菌生存試験で得られた傾向と一致する。また、50mol%程度のコレステロール添加において膜破壊が阻害される傾向を示し、コレステロールが膜の形状維持に作用していることが確認できた。
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