研究課題/領域番号 |
23750086
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
春藤 淳臣 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 特任助教 (40585915)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 表面・界面 / 誘起キラリティー / 濡れ性 / 薄膜 |
研究概要 |
本研究課題では,生体内のDNAやタンパク質にしばしばみられる構造キラリティーを発展的に利用するため,高分子の側鎖配向に伴うキラリティーの誘起・増幅・制御を可能とする直鎖状高分子を合成し、それに基づく革新的なキラル識別剤を開発することを目的としている。平成23年度に実施した具体的な項目と主な研究成果を以下にまとめる。(1)二次キラル高分子の設計・合成とキラル配向性の評価:ビフェニル基とキラルアルキル基を側鎖に併せもつ新規高分子を合成した。高分子のキラル配向状態を分光学的に評価し、π-π相互作用に基づく側鎖配向とそれによるキラリティーの誘起・増幅を明らかにした。また、温度によって配向状態、ひいてはキラリティーの制御が可能であることを確認した。(2)自己支持フィルムの作製とその凝集状態の評価:合成した二次キラル高分子は、従来のらせん高分子とは異なり、溶媒キャスト法やスピンコート法によって簡便に製膜できること、また、得られたフィルムは自己支持性があることを確認した。小角X線散乱および広角X線回折測定によって、側鎖配向に基づく層状構造を形成していること、および製膜に用いる溶媒によって層状構造の配向状態を制御できることを明らかにした。(3)フィルムの表面特性の評価とキラル検出フィルムへの応用:静的接触角測定によって、フィルム表面のキラル特異的な濡れ性を明らかにした。とくに、プローブ液体の光学純度を接触角とその経時変化によって決定できることを確認した。さらに、製膜に用いる溶媒によって、フィルム表面の凝集状態、ひいては濡れ性におけるキラル選択性を制御することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目的・目標として、(1)二次キラル高分子の設計・合成とキラル配向性の評価、(2)多孔質無機担体へのグラフト化と光学分割カラムの開発、(3)高感度・高選択的キラル検出フィルムの開発を設定した。 平成23年度は当初の計画に従って研究を実施し、目標(1)、とくに高分子の側鎖配向に伴うキラリティーの誘起・増幅・制御を達成した。また、(3)キラル検出フィルムの開発にも着手し、フィルム表面のキラル特異的な濡れ特性を明らかにした。とくに、製膜に用いる溶媒によって、フィルム表面の凝集状態、ひいてはキラル選択性を制御することに成功した。現在、蛍光キラル検出フィルムへの応用を目指し、発光性基(ナフタレンジイミド誘導体)を側鎖にもつ二次キラル高分子の開発を行っている。 当初の計画通りに研究を進め、期待通りの結果・知見を得ることができた。また、それに加えて、キラル特異的な濡れ性など新たな現象を見出した。研究成果の一部は学会にて発表済みであり、現在、論文2報として投稿準備中である。以上の理由により、順調に研究が進展したと判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
(1)二次キラル高分子の設計・合成とキラル配向性の評価、(2)多孔質無機担体へのグラフト化と光学分割カラムの開発、(3)高感度・高選択的キラル検出フィルムの開発を当初の目的・目標とした。平成23年度は目標(1)、高分子の側鎖配向に伴うキラリティーの誘起・増幅・制御を達成した。平成24年度は、(2)多孔質無機担体へのグラフト化と光学分割カラムの開発、および(3)高感度・高選択的キラル検出フィルムの開発を重点的に行う。 多孔質無機担体への高分子鎖のグラフト化には、高分子主鎖末端への活性基の導入が必要となる。すでに、二次キラル高分子への活性基の導入に着手しており、無機担体へのグラフト化に支障はないことを確認している。無機担体へのカラム化を行い、その分離特性を評価する。とくに、高分子のキラル配向状態とキラル選択性との相関を明らかにし、光学分割カラムとしての可能性を探る。 本年度に明らかにしたフィルム表面のキラル特異的な表面特性は、全く新しいキラル検出フィルムへの応用展開の可能性を示すものであり、現象の理解と一般化に注力する。とくに、キラル液体との膜界面における高分子鎖のコンフォメーションやダイナミクスを明らかにする予定である。また、発光性基(ナフタレンジイミド誘導体)を側鎖にもつ二次キラル高分子の合成にも着手しており、蛍光変化に基づく高感度・高選択的キラル検出フィルムへの応用展開を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究課題では,キラル識別能を増幅・制御する手法として,高分子の側鎖配向を利用してキラリティーを誘起・増幅させることを新たに提案しており,側鎖のキラル配向状態を評価することは極めて重要になっている。平成23年度は、溶液状態において、二次キラル高分子の側鎖配向とそれによるキラリティーの誘起・増幅・制御を明らかにした。平成24年度は二次キラル高分子の光学分割カラムやキラル検出フィルムへの応用展開を計画しており、固体状態における評価が必要である。そこで、設備備品としてFT-IR拡散反射ユニットの購入を計画している。 キラル識別能の飛躍的な増幅および制御の本質は効率的に側鎖配向を促進することにあり,分子構造の最適化しつつ,さまざまな高分子を合成することが必須である。また,分離・検出効率の最適化には,中心性,軸性,面性キラル化合物などの高価なプローブ試薬が必要になる。したがって,消耗品費として種々のキラル試薬・溶媒などの購入を予定している。 挑戦的な本研究課題の遂行には,分離・分析科学,超分子化学、高分子化学などの多角的な基礎知見が必要不可欠である。成果発表を兼ねた情報収集や討議のため,欧州や米国への渡航,セミナーや国内学会への参加を計画している。
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