研究課題/領域番号 |
23750089
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
大平 慎一 熊本大学, 自然科学研究科, 准教授 (60547826)
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キーワード | 高速液体クロマトグラフィー / キャリブレーションフリー / 電荷量検出器 / 緩衝溶液ジェネレータ / pHグラジエント |
研究概要 |
今年度は,本課題において核となる電荷量検出器の特性向上と有機溶媒フリーでも高い分離特性を得ることが期待されるpHグラジエントのためのガスフリーインライン緩衝溶液発生器の開発に取り組んだ。 電荷量検出器では,検出デバイスの再設計により電極間のチャネル断面積を小さくすることで水の解離で生じたイオンによるバックグラウンドシグナルを大幅に低減した。フローインジェクション法による評価では,炭酸ナトリウムの検出限界は,10 nMであった。通常の導電率法では,炭酸のような弱酸を高感度には検出できない。また,ガス捕集部での捕集特性を向上するため,捕集溶液を比較検討した。1 mM程度のアルカリ溶液が最もよいS/N特性を示した。また,酸化,気化部については,アミノ酸などに含まれる硫黄や窒素から生じた硫酸や硝酸はほとんど気化しないため影響が小さいことを確認した。今後,クロマトグラフィーへと接続し,システム全体の評価を進めていく。 一方,pH緩衝溶液ジェネレータでは,陽イオン交換膜と陰イオン交換膜を貼り合わせた構造のバイポーラ膜,イオン交換膜で隔てた5つの溶液層からなる平面型デバイスを構築した。リン酸塩やアルカリ塩の溶液をソースとしてデバイスに供給し,膜の透過量を電流により制御した。また,電極表面で生じるガスの混入を防ぐため,電極と生成した緩衝溶液が直接触れない構造とした。pHと溶液流量,電流値との間に 一定の関係式を見いだした。この関係式に基づいて,任意の強度,pHの緩衝溶液をインラインで迅速に生成可能となった。緩衝溶液は,クロマトグラフィーのみならず,生化学の分野でも重要な役割を担っており,実験プロセスの大幅な削減にも貢献できると期待される。本研究では今後,pHグラジエントによる有機酸やアミノ酸の分離特性を評価し,向上させていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の成果により,検出感度の向上およびシステムの安定化を図ることができた。また,捕集部について,捕集液および捕集デバイスの最適化によりシステム全体の特性向上が期待される。さらに,アミノ酸類の測定の際に懸念される硫黄や窒素の妨害がほとんど無いことも確認された。酸化部の検討が進んでいないが,文献調査から光フェントン反応による酸化が本法に適していると考えている。次年度,システム全体を再構築した後,検討を進めていく。もう1つの懸念事項であった有機溶媒を溶離液とした分離系への対応についても,当初の計画にはなかったが,pHジェネレータの開発によるグラジエント分離機構といったまったく新しいアプローチを検討した。pHグラジエントによる実際の分離特性評価については今後の課題であるが,有機溶媒フリーの分離系の展開によって,本法にとって有利なだけでなく,グリーンケミストリーにも貢献すると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
まず,酸化・気化を含めたシステム全体の評価を進めていく。具体的には,酸化・気化・捕集・検出の一体型システムによる有機酸およびアミノ酸類の検出特性をフローインジェクション法により評価する。特に,炭素数に応じた応答が得られるかどうか,分離特性に影響がないかを検証する。また,十分な検出感度が得られるかが本法の今後の展開を大きく左右するため,システム全体のチューニングをはかっていく。分離特性への影響については,吸光度法や蛍光法による検出を直列,並列に接続して評価を進める。 一方,pHジェネレータについては,最新のコアシェルカラムと組み合わせ,低圧条件でも可能な超高速クロマトグラフィーによる有機酸,アミノ酸の分離条件を確立する。最終的にはこれらを組み合わせたシステムを飲料物や食品の分析へと応用する。
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次年度の研究費の使用計画 |
分離特性を評価するため,種々の分離カラム,イオン交換膜や多孔質膜といった捕集や検出のためのデバイス材料を購入する。必要に応じて,カラム樹脂を化学修飾することで分離特性を向上する。検出器システムの構築にあたっては,制御系やデータ処理システムを導入し,研究を促進していく。また,緩衝溶液ジェネレータについては,任意のpHの緩衝溶液をえるためのハードとソフトの両方を準備し,自動化する。
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