研究課題/領域番号 |
23750093
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研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
中西 淳 独立行政法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, 独立研究者 (60360608)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | パターニング / ゼータ電位 / ケージド化合物 / ポリエチレングリコール / 細胞接着 / 細胞移動 / 細胞外マトリクス |
研究概要 |
外部刺激に応じて表面の細胞接着性が変化する培養基材は,基礎研究から組織工学的まで広範な用途が存在する。本研究では,これまで進めてきた光応答性のケージド細胞培養基材の研究をさらに発展させ,応用範囲を拡大することを目的としている。本年度は,光照射前は細胞接着を「完全に」抑え,光照射後に「即座に」細胞接着性となる新規基板の開発と,既存の基板を用いた細胞機能分析を行った。ガラス基板にアミノ基終末シラン(APTES)とメチル基終末シラン(PTES)の混合SAMを形成した。この表面に,光解離性の活性カルボネートを有するポリエチレングリコール(PEG;分子量2Kと5K)を反応させてケージド細胞培養基材を作製した。ここではAPTESとPTESの混合比およびPEG分子量の異なる基板を複数用意した。基板表面が細胞接着を「完全に」抑えるためには,接着の足がかりとなるタンパク質の吸着を抑えることが先決である。そこで,蛍光標識BSAを指標に基板へのタンパク吸着量を調べたところ,BSA吸着量は表面ゼータ電位と良い相関を示すことが分かった。また,PTESの仕込み比が80%で,PEG5KとPEG2Kの植え継ぎを行った基板では,BSA吸着量がほぼ0になることを突き止めた。実際に,細胞はこの基板の光照射領域に1時間程度で接着・伸展し,そして1週間以上に照射領域内に維持されることが分かった。以上のように,所望の条件に迫る基材を作製することができた。また,基板の特性のさらに向上を図るべく,光分解性基を介して,リビングラジカル重合の開始基と活性カーボネートを有する光分解性架橋剤を合成した。さらに,細胞微小環境の制御法として,光応答的に特定細胞外マトリクスタンパク質を捕捉する基板を開発し,さらに同様の基板を用いて集団移動現象を分析し,細胞環境依存性に関する重要な知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた高分子を基板にグラフトする"Grafted to"の手法において,SAMの組成や植え継ぎ法などを行うことによって,基材の特性を大幅に改善できることを見いだしたために,その検討を先に行った。今後の応用展開においてはこちらのアプローチも候補にできる意味で,重要なプログレスを得られたと考えている。と同時に,当初メインに計画していた"Grafted from"の手法で使用する分子についても開始基の合成が済んでいる。また,ケージド細胞培養基材を用いて細胞機能の細胞環境依存性を分析する応用展開として,細胞集団移動現象を調べた研究を実施した。以上を考え合わせると,当初の予定に対しておおむね順調に進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
"Grafted from"のアプローチに基づくケージド細胞培養基材の開発を行う。その後に,初年度に培った"Grafted to"の手法の改良と合わせて,タンパク質性培養基材への応用展開を行う。また,引き続き細胞微小環境の光制御による細胞機能の分析を実施する。
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次年度の研究費の使用計画 |
開発した新規ケージド細胞培養基材上で微小環境が制御された細胞の機能分析を行うが,この際に細胞機能を多角的に捉える目的で,顕微鏡用コントローラを購入する。この他に,同基材の開発に必要な化学・生化学試薬等の購入することを主な研究費の使用計画と考えている。
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