研究課題/領域番号 |
23750100
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
イリエシュ ラウレアン 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (40569951)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 鉄触媒 / 銅触媒 / フェナントレン誘導体 / インデン誘導体 / 芳香族スルフォン酸クロリド |
研究概要 |
将来にわたり化学材料・医薬品等の安定供給を行うため,従来パラジウム,ロジウムといった貴金属触媒を用いて行われてきた合成反応を鉄,銅などのユビキタス金属触媒を用いて実現することは極めて重要であると認識されている.本研究の目的は,鉄,銅などを触媒とした新規合成反応を開拓し,π電子系化合物創製へ応用する. 平成23年度に,鉄触媒を用いた多環芳香族化合物の合成法を開拓した.すなわち,触媒量の鉄塩およびビピリジン型配位子,酸化剤の存在下,アルキンにオルトビアリールグリニャール試薬を作用させたところ,アルキンとビアリールの環化によるフェナントレン骨格の形成反応が進行すると見いだした.本反応は穏和な反応条件で進行するため高い官能基許容性を示し,種々のフェナントレン類縁体が合成可能である.反応の中間体として前例がないビフェニルフェラサイクルが生成される興味深い知見も得られた. また,鉄触媒を用いて,市販の安定な芳香族スルフォン酸クロリドの末端アルキンへの付加反応を開発した.この反応は高い位置および立体選択性で進行し,様々な(E)-β-クロロビニルスルフォンを得られた.広い基質適用範囲および高官能基許容性が特徴である.また,芳香族スルフォン酸クロリドの末端アルキンへの付加に引き続く炭素-水素結合活性化を経る環化反応を設計し,有機半導体として注目を集めているインデン誘導体合成に成功した.この反応は銅触媒を用いて高収率および高官能基許容性で進行する.この反応を利用し,溶液および個体状態で高蛍光量子収率を示すジインデン誘導体も合成した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
開発したフェナントレン合成は,低毒性ユビキタス鉄触媒を用いるだけでなく,以前報告されていたパラジウム触媒などを利用した合成法より極めて穏和な条件で進行する.そのため,高い官能基許容性を示し,様々な新規フェナントレン誘導体の合成が始めて可能になった.反応機構を検討した結果,前例がないビフェニルフェラサイクルが形成される発見は鉄触媒の新たな反応性であり,さらなる合成反応への応用が期待できる.本研究の成果は化学分野における最高峰の学術雑誌であるアメリカ化学会誌(Journal of the American Chemical Society)に掲載を認められている. インデン誘導体合成の特徴は,市販の安定な芳香族スルフォン酸クロリドをアリール源として,安価なユビキタス銅を触媒として利用することである.また,本反応は高い官能基許容性を示し,多数の新規インデン誘導体が合成可能になった.その中,溶液および個体状態で高蛍光量子収率を示すジインデン誘導体も合成できた.本研究の成果もアメリカ化学会誌(Journal of the American Chemical Society)に掲載を認められている.
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今後の研究の推進方策 |
開発したフェナントレン合成の発展として,縮合多環芳香族化合物を合成し,それらの物性から有機機能材料への応用を検討する予定である.特に含へテロ原子化合物および拡張π電子共役系化合物を設計・合成し,p型有機半導体への応用を検討する.また,類似反応である[2 + 2 + 2]環化付加を開発する予定である.鉄触媒を用いた有機金属試薬とアルキン2分子の環化付加による五置換ナフタレン骨格の形成が進行することをすでに見いだした.反応条件を最適化し,適用範囲を調べた上,多置換ナフタレン誘導体の合成および物性研究を予定する. インデン合成法により多インデン部位を含んだ化合物を合成する予定である.この様な化合物は個体状態で高い量子収率を示すことが期待でき,有機発光ダイオードへの応用を検討する予定である. また,芳香族スルフォン酸クロリドをアリール源として利用した反応を開発する予定もある.特に炭素水素結合切断を得た炭素炭素結合形成反応への利用を検討したい.
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次年度の研究費の使用計画 |
研究経費のうち消耗品の割合が高いが,これは,実験研究において触媒前駆体,配位子,金属反応剤,有機試剤等の多くの反応条件を精査することで,新規触媒反応の開発を目指す本研究の特性上,必要不可欠なものである.効率的な条件検討のためパラレル合成装置を利用し,密封性の高い特集な反応容器(シュレンク管)は多量必要である.反応は全て不活性ガス雰囲気化で行うため,窒素およびアルゴンガスを購入する予定である.反応の解析に用いるNMR,GC,GC-MSの備品,特にNMR用測定管,重溶媒,GCおよびGC MS用カラム,キャリアガスなどが必要となる.また,物性評価を行う際,UV-Vis, PL, CVなどの備品,例えば測定用セル,溶媒,標準物質,電解質,電極などが必要である. 研究成果を国内および国外学会で発表するため旅費が必要となる.
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