研究課題/領域番号 |
23750104
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
相川 光介 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (30401532)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 不斉合成 / 不斉配位子 / 不斉触媒 / エン反応 / オキセテン / イン反応 / 環化付加反応 / 医薬品 |
研究概要 |
これまで触媒的不斉炭素-炭素結合生成(CCF)反応の開発研究において中心的な役割を担う不斉ルイス酸触媒が数多く報告されてはいるが、実用的不斉触媒プロセスへの展開は極めて困難な状況であった。これに対して、我々は高周期遷移金属錯体、特に通常ルイス酸触媒として用いられていなかった2価カチオン性パラジウム錯体を不斉ルイス酸触媒とすることによって、世界的にも極めて前例の限られる実用的プロセスに耐えうる超効率的触媒的不斉エン反応を実現させた。 平成23年度の研究では、「反応媒体が不斉触媒反応に与える効果」という視点に重きを置き、ルイス酸強度の調整、不斉配位子の選択、反応基質のスクリーニング等について詳細に検討し、エン反応以外の触媒的不斉CCF反応に応用展開することを目指した。その結果、これまでに前例のない[2+2]環化付加反応、即ちオキセテン生成反応を見出すことに成功した。この反応は、トリフルオロピルベートとアルキン化合物を作用させることにより、光学活性な含CF3オキセテン化合物が高い化学収率及び光学収率で得られる。これは、光学活性なオキセテン化合物を合成・単離した世界で初めての例である。様々な官能基を導入したアルキンを用いて検討を行った結果、脂肪族、芳香族、また電子吸引基であるエステル、アルデヒド、CF3、さらにヨウ素やピナコールボラン、シランを含む基質において問題なく高い化学収率、エナンチオ選択性で対応するオキセテンを得ることができた。 また、オキセテン化合物をこれまでにないキラルビルディングブロックとなることを明らかにした。例えば、還元反応においては、Pd/C存在下、酢酸エチル中ではオキセタンを、エタノール中では連続する不斉点を持ったアルコールをそれぞれ立体選択的に合成できる。また、水素化ホウ素ナトリウムを用いるとオキセテン骨格を保ったままアルコール体に還元できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書の研究の目的に記載したように、本研究の期間内の目標として1)実用的プロセスに耐え得る新規触媒的不斉炭素‐炭素結合生成反応の開発、2)動的キラルなラセミ触媒の触媒的不斉制御の2項目を設定した。1年目の平成23年度の研究では、特に1)の開発研究を精力的に行った。 その結果、目標にした実用化に耐えうる新規触媒的不斉炭素‐炭素結合生成反応、即ち新規オキセテン生成反応を開発することに成功した。一方で、目標に設定していた用いるPd錯体の触媒量S/C >1,000には届かず、最高でS/C 830という結果になってしまった。したがって、今後はさらなる不斉触媒の効率化が求められる。また、我が国における元素戦略のもと、安価でより高い活性を持つと期待された新規CuやFe錯体触媒を独自に設計・合成したが、現在のところPd錯体を上回る結果は得られていない。今後はより緻密な触媒設計を計算化学的に行う方針である。 さらに現在までに、重要医薬品中間体となり得る光学活性化合物を超効率的に合成できる触媒的不斉イン反応を世界で初めて開発することにも成功している。現在のところ、触媒量、基質の詳細な検討は勿論のこと、溶媒や温度等の反応条件は徹底的に検討している段階である。こういった成果からも、研究はおおむね順調に進行していると自己判断している。
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今後の研究の推進方策 |
交付申請書の研究の目的に記載した本研究の期間内の目標として、1)実用的プロセスに耐え得る新規触媒的不斉炭素‐炭素結合生成反応の開発、2)動的キラルなラセミ触媒の触媒的不斉制御の2項目を設定した。平成24年度の研究では、1)の開発研究を引き続き行うが、特に2)の開発研究を精力的に行う予定である。 1)の開発研究では、高効率な新規Cu、Fe錯体触媒を計算化学的手法を利用して設計・合成すること、及び触媒的不斉イン反応のさらなる効率化を検討する。 2)の開発研究では、様々な光学的に純粋なBIPHEPs-Pd触媒を効率的に合成する技術を確立する。さらに、我々が今回開発した新規触媒的不斉炭素‐炭素結合生成反応へこのBIPHEPs-Pd触媒を適応させ、極めて高い立体選択性を達成することを目標とする。 また、本年度の研究費に関しては効率的に使用することが出来た。
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次年度の研究費の使用計画 |
本申請研究を遂行するための十分な研究設備はすでに研究室内に備わっている。したがって、主に有機合成実験を行うために必要不可欠な薬品(有機合成試薬、有機金属試薬等)、有機溶媒(アセトン、ヘキサン、酢酸エチル、ジクロロメタン、トルエン、ジエチルエーテル、ペンタン、アセトニトリル、メタノールなど)、ガラス器具、ガスボンベ(アルゴン、水素、窒素、酸素、一酸化炭素)の購入費を主に計上する。さらに、計算化学を行うための計算機使用料、成果報告のための学会参加費(旅費)を必要とする。 また、23年度の研究費に関しては効率的に使用することが出来た。
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