研究課題/領域番号 |
23750107
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
伊藤 謙之介 信州大学, 工学部, 助教 (40467874)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 選択的合成・反応 |
研究概要 |
光のエネルギーを用いた分子変換反応は、例えば、光合成、ビタミンD3 の生合成のように生物が生命を維持するために必要不可欠なものである。したがって光化学反応は、生物にとって身近に起きている化学反応といえる。これらの光化学反応は、数種類の構造体が一見剛直に思える構造であっても実は非常に柔軟性に富んでおり、しかしながらお互いが精密に相互作用することで、光励起種の寿命を確保しつつエネルギーや電子の授受を高効率的に行うことで実現されている。生体が極めて高度な光化学反応をいとも簡単に行っている一方で我々は、光エネルギーを利用する有用な分子変換反応を数多く見出しているかと問われれば必ずしもそうとは言えない。その理由は、光化学反応は高エネルギー状態の光励起種の反応であり、反応性、立体選択性の制御が困難なため熱的な反応と比較して一般性に問題があるからである。また、特殊な反応装置が必要なことも合成化学的には問題である。しかしながら光化学反応は、熱的な反応では発生困難な高反応性化学種を光照射のみで簡単に、クリーンに発生させることができるため非常に魅力的な反応である。したがって、これまで熱的反応のみならず光化学反応において報告例がない、新しい光化学反応の創出は非常に魅力的な研究課題と言える。このような背景から報告者は、光照射下において発生させたラジカル種を用いる付加反応に挑戦したところ、収率78%で目的物とする付加体を得ることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
光照射下において発生させたラジカル種を用いる新しい光化学反応の創出を行い、良好な収率で目的物を得ることに成功した。また、少量の光触媒を添加すると短時間で反応が完結し目的物が高収率で得られた。また、立体選択性が発現していることも見出した。
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今後の研究の推進方策 |
光照射下において発生させたラジカル種を用いる新しい光化学反応の創出研究において、少量の光触媒を添加すると短時間で反応が完結し目的物が高収率で得られたが、得られる実験結果から光触媒の触媒作用および反応機構の仮説を立て、より一層の収率、立体選択性の向上、反応機構の解明を実現する。種々の溶媒を用いて検討を行い最適溶媒を見出すことができたが、更なる収率と立体選択性の向上を目的に数種類の溶媒を用いた反応を検討する予定である。また、反応温度も検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
主に、薬品類、薬品類分離用充填剤、実験器具、成果報告のための学会旅費に使用する予定である。薬品類では、立体選択的反応を遂行するために、種々のキラル化合物を入手する必要がある。薬品類分離用充填剤は、フラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィーを行うためのシリカゲル、実験器具はガラス器具である。光化学反応に用いる反応容器は、光化学反応の特性に見合った専用のものをデザインし特注・入手して用いなければならない可能性がある。学会旅費に関しては、本研究課題の成果を複数の学会で報告する予定である。
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