光増感触媒反応は,通常の熱的励起種よりもはるかに高いエネルギー状態にある光化学的励起種を触媒的に生成できるので,この反応を有機合成化学に利用する事ができれば,従来法では実現困難な光エネルギーを利用する新しい触媒的化学変換への道が拓けることになる.しかし現在までに,光照射下での触媒的反応の事例は殆ど未開拓である.この様な背景を基に申請者は,光化学的励起種から触媒的に生成させた含窒素炭素ラジカル種を利用する立体選択的炭素-炭素結合形成反応の基礎学理を確立し,最終的には光照射下でのエナンチオマーの触媒的生成反応の新規研究分野を開拓,光を利用した革新的分子変換方法論の創出を目的とし研究を行った.申請者は,ニトロンという光増感反応の新しいアクセプター分子を発見し,新規なルイス酸/光増感剤ハイブリッド型キラル触媒による反応基質の同時活性化を基軸とする触媒的不斉光増感反応を鋭意検討した.まず最初に,光照射下において発生させた含窒素炭素ラジカル種とニトロンのルイス酸/光増感剤ハイブリッド型キラル触媒非存在下における反応を行った結果,様々なアミン,ニトロンを用いることが可能であり高い基質一般性を示し,目的物を良好な収率で得ることができた.また,少量のカルボニル系光増感触媒を添加すると反応が短時間で完結することも見出した.本反応は溶媒効果が顕著に現れ,非プロトン性極性溶媒の使用が高反応性,収率の向上を実現させた.特に,THF を溶媒として用いた室温反応において,収率は 31% と低かったが中程度のジアステレオ選択性 (54% de) で目的物が得られた.次に,新規なルイス酸/光増感剤ハイブリッド型キラル触媒を用いた不斉反応を行った.その結果,反応はスムーズに進行し生成物が良好な収率で得られたが,高極性である生成物のエナンチオマー過剰率を決定することはできなかった.
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