研究課題/領域番号 |
23750108
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
吉村 正宏 名古屋大学, 教養教育院, 講師 (90402453)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 鎖状多座配位子 / オクタへドラル / 金属錯体 / Ph-BINAN-H-Py / 触媒反応 |
研究概要 |
分子触媒の開発において活性種を単一化する配位子設計が求められている。例え、一つの活性種が完璧な性能をもっていても、複数の活性種が共存すれば全体の効率は低下するからである。本研究では、ビナフチル骨格の3,3'位へ置換基を導入することにより空間配座を固定化し、立体選択的にオクタへドラル金属錯体を形成する鎖状多座配位子に注目する。代表標的配位子としてsp2N/sp3NH混合系の四座配位子R-BINAN-R'-Pyを取り上げ、そのルテニウム錯体がcis-α型を優先し、芳香族ケトン類の不斉水素化に有効であることを見いだしている。この発見を起点として、ビナフチル骨格を基軸としたsp2N/sp3NH部を反応活性部位として固定した、鎖状三座・四座配位子を設計・合成し、その金属錯体による新たな触媒機能を獲得することを目的とする。 具体的には、平成23年度内に(a)ビナフチル骨格を基軸とした三座および四座配位子の対称・非対称修飾に基づく配位子ライブラリーの構築、(b)新型配位子による立体選択的金属錯体形成能の検証、を実施した。三座配位子として、鎖状PNN型配位子BINAN-Py-PPh2を取り上げ、fac 配位特異的なベンゼンを補助配位子とすることで[Ru(C6H6)((R)-binan-py-PPh2)](BF4)2 を定量的に合成した。この配位子のビナフチル骨格の3位にフェニル置換基を導入することにより、ベンゼン配位の助けを得ることなく、fac構造が優先することを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
項目(a)に関しては、3,3'位置換基の自由自在修飾に基づくR-BINAN-R'-Pyおよびその非対称性誘導体の合成法を確立した。代表的配位子Ph-BINAN-H-Pyは、現在のところオルトリチオ化/ヨウ素化/鈴木-宮浦カップリング/還元的アルキル化プロセスにより、総収率84%で合成することができる。この経路に従い、R-BINAN-R'-Py配位子に立体的・電子的に異なるRやR'を導入し配位子の多様化を図った。ピリジン部の構造修飾に関しては、3,3'位R置換BINANの還元的アルキル化段階におけるアルデヒド部の多様化によって対応した。ピリジン、キノリンなどのsp2N系配位子を導入した。並行して、ビナフチル骨格を基盤としたsp2N/sp3NH部を反応活性部位として固定し、鎖状R-BINAN-sp2N-X三座配位子を合成した。(R)-1,1'-ビナフチル-2,2'-ジオールを出発原料に、ビストリフレート化/Buchwald法によるモノホスホネート化/ピリジルメチルアジドによるStaudinger反応を鍵段階として、6段階全収率81%で3位無置換基のBINAN-Py-PPh2を合成した。 (b)に関しては、上記ライブラリーの配位子を用いて錯形成を実施した。酸化還元能のある遷移金属錯体からルイス酸性な金属錯体まで広範にその調製法を検証し、オクタへドラル錯体における配位様式をNMR実験およびX線回折実験によって検証した。実際に、Ph-BINAN-H-Py/MX2錯体において、鉄、マンガン、銅、ルテニウムの結晶を高収率で得ることに成功し、これらの錯体においては結晶中でいずれもΛ-cis-α構造をとっていることを確認した。さらに、鎖状の三座配位子R-BINAN-Py-PPh2においては、ベンゼン配位の助けを得ることなく、fac構造をしていることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
環境調和型反応に焦点をおいた反応探索へと進み、新触媒系の確立を目指す。水素分子や水、アルコール、アンモニアなどの小分子を活性化し、カルボニル化合物やオレフィン類に付加する反応は、原子効率100%、Eファクタ0の環境調和型有機合成反応として注目される。これら環境調和性の高い触媒反応に焦点を置いて、自動合成装置を用いて行列的に触媒機能を探索する。研究実績の概要で述べたように、Ph-BINAN-H-Py/Ruπアリル混合触媒系が芳香族ケトン類の不斉水素化に有効であることが分かっている。平成23年度に得られた(a)項目と連動しつつ、R-BINAN-R'-Py配位子の構造と活性・選択性相関、それらの金属錯体のcis-α選択的オクタへドラル錯体形成の優位性、および金属ヒドリドのヒドリド性制御を取り入れた触媒設計を行う。 並行して、鎖状三座配位子R-BINAN-sp2N-Xの水素化機能も調査する。予備的段階ではあるが、BINAN-Py-PPh2配位子を有するRu錯体に各種配位性化合物を添加した結果、DMSOとの組み合わせによる錯体を用いて、ピナコロンおよびβ-ケトエステルの水素化において、エナンチオマー比が最高2:98である水素化生成物が定量的に得られることが分かっている。その他の環境調和型反応も15種類の反応がすでにライブラリー化され、反応変換率・化学収率・不斉収率を決定する環境が整備されている。これらの反応系に対して、新型配位子の適用性を検証する。 さらに、BINAP/Ru錯体触媒を用いるエナミド基質の水素化の機構解明過程で得た様々な解析技術を最大限に活用して、新触媒系の機構を解明する。速度論、重水素標識、同位体効果測定により反応経路や触媒サイクル内の各種間のエネルギー関係に関する情報を得、機構解明研究成果を触媒性能向上のために役立てる。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究は研究代表者と本学大学院理学研究科の大学院生2名の計3人体制で、(a) 配位子ライブラリーの構築、(b) 新規配位子による立体選択的金属錯体形成能の検証、(c) 環境調和型触媒反応の探索に関わる実験を実施する。研究の性格上、様々な有機化合物、反応剤、分離精製資材が必要となるが、研究費のほとんどをこれらの消耗品の購入にあてたい。 通常の測定には、本学化学測定機器室設置の共通機器を利用する。高性能機器類として必須となる化学測定機器室設置の核磁気共鳴分光装置、X線結晶構造解析装置、質量分析装置、自動合成装置の利用料を支払う。廃棄物処理料も必要である。国内での研究成果発表を年1回(日本化学会春季年会)は実施する計画である。発表資料作成(スライド作成補助・資料提供、コピー複写と再生紙代)、研究資料・論文発表(文献印刷、研究成果投稿、外国語論文校閲)に謝金、その他の研究経費を充てる。
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