平成23年度に記載した今後の研究の推進方策に基づき、環境調和型反応に焦点をおいた反応探索をおこない、新触媒系の確立を目指した。平成24年度は、原子効率100%、Eファクタ0の反応として、水素分子のカルボニル化合物への付加反応に焦点をおいた。前年度までに、R-BINAN-R'-Py配位子のcis-a選択的Ru錯体形成能を確認し、反応のエナンチオ選択性がCH-p相互作用によるものであることを明らかにしている。今年度は、新たに速度論実験、速度式解析、重水素標識実験、速度論的同位体効果測定などをおこない、本触媒系の反応経路に関する情報を得た。その結果、本触媒系は非常に遅い触媒サイクル前段階をもち、基質阻害のある特徴的な触媒サイクルによって進行することが分かった。反応はごく少量生じた触媒活性種によって進行し、配位子量を金属前駆体に対して20分の1まで低減しても、反応速度を低下させること無く、高いエナンチオ選択性で反応が進行することを示した。その際の、キラル増幅率は20000に達する。 並行して、ビナフチル骨格を基盤としたsp2N/sp3NH部を反応活性部位として固定した、鎖状R-BINAN-Py-PPh2三座配位子を設計、合成した。この配位子とRuCl2(dmso)4を用いて錯形成をおこなったところ、単一のfac選択的Ru錯体が定量的に得られた。3位のR基を水素に置き換えると3種類の異性体が生じることから、3位置換基がfac選択性の獲得に有効であることが明らかとなった。この錯体を用いて、ピナコロンを水素化すると、エナンチオマー比が最高98:2である水素化生成物が定量的に得られることが分かった。水素化触媒に限らず、新たな触媒設計指針を示すものとしても注目される。
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