研究課題/領域番号 |
23750110
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
大松 亨介 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (00508997)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 触媒的不斉合成 / 有機分子触媒 / オニウム塩 / 1,2,3-トリアゾール |
研究概要 |
申請者らが独自に開発した光学活性1,2,3-トリアゾリウムイオンのさらなる機能追究と触媒的不斉合成への応用に取り組んだ。開発したトリアゾリウムイオンは、静電的相互作用および水素結合に起因する高いアニオン認識能を有している。23年度の研究では、カチオン中心の電荷密度および触媒分子全体の水素結合供与能と立体制御能の相関理解に焦点を絞り、評価のための反応系として(1)Lewis塩基システムであるハロシリケートの付加反応、(2)ブレンステッド塩基システムであるシアノスルホンのMannich型反応、および(3)水溶性反応剤システムであるシアン化物イオンの付加反応を設定した。ハロシリケートを鍵中間体をとするアジリジンの不斉ハロゲン化反応では、触媒分子に電子求引性置換基を導入するに従って、エナンチオ選択性が向上する傾向が見られた。電子求引性置換基の導入は、カチオン分子の水素結合供与能の増大につながり、イオン間距離がより緊密になった結果、立体選択性が向上したと考えられる。適切な立体修飾を施したトリアゾリウム塩を触媒として用いることで、トリメチルシリルクロリド、またはブロミドを反応剤とするアジリジンの高立体選択的ハロゲン化反応の開発に成功した。本触媒システムは、前例のない2,2-二置換アジリジンの速度論的光学分割へも応用可能であり、高い実用性を有していると同時に、シリケートを鍵活性種とする有機合成化学に新たな知見をもたらしたという点で意義深い。また、トリアゾリウムイオンの高いアニオン認識・捕捉能を活用することで、(2)シアノスルホンの高エナンチオ選択的Mannich型反応及び(3)シアン化物イオンの不斉付加反応の実現に成功した。特に、(3)の研究では、トリアゾリウム固有の性質が高立体選択性発現の鍵であることが窺える結果を得ており、24年度の研究によりその詳細を明らかにして行きたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
水素結合供与能と立体制御能との相関理解に関する研究が、当初計画通り順調に進んでおり、いくつかの新規不斉合成反応の実現にも成功している。また、トリアゾリウムイオン固有の性質を活用することで、光学活性第四級アンモニウム塩に代表される従来のオニウム塩触媒では達成困難な不斉合成反応を実現する端緒をつかめたことは、予想を上回る大きな成果であり、真に有用な反応の開発へ繋がると期待できる。有機分子ルイス酸としての機能発現を指向したハロアゾリウムイオンに関する研究では、既にその合成法の確立に成功している。今後は、機能発現を目指した研究を加速させる。
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今後の研究の推進方策 |
ハロシリケートを介するアジリジンの不斉開環反応及びシアノスルホンの不斉Mannich型反応を既に達成したため、前年度からのシアン化物イオンを用いた反応に関する研究を継続すると同時に、更なる新規反応の開発を推し進める。具体的には、α-炭素上に負電荷が局在化するスルホニルカルボアニオンの特徴を活かした、新規炭素求核剤の設計と不斉付加反応への応用、ハロシリケートの反応性を利用したハロゲン化物イオンの不斉共役付加反応の開発、炭素求核剤を用いた末端アジリジンの速度論的光学分割を目標として設定する。光学活性1,2,3-トリアゾリウムイオンの多様なライブラリーの構築と、構造/立体制御能の相関理解も進んでいることから、23年度に得られた知見に立脚した研究を展開することで、着実に目標を達成したい。また、ハロアゾリウムの触媒機能発現を指向した反応開発を進める。ハロゲンの中でも、水素と同等の電気陰性度を有するヨウ素に焦点を当て、強力な電子求引基であるトリアゾリウム環に結合したヨウ素原子のルイス酸機能の発現を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
主として研究遂行に必要な各種消耗品、具体的には、化合物合成に必要な薬品類、反応・精製用の溶媒類、シリカゲル及びガラス器具の購入費にあてる。前年度繰越金である12,292円も消耗品費として使用する。その他に、学会参加のための旅費、論文投稿時の英文校正のための謝金として使用する。
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