研究概要 |
申請者らが独自に開発した光学活性1,2,3-トリアゾリウムイオンのさらなる機能追究と触媒的不斉合成への応用に取り組んだ。開発したトリアゾリウムイオンは、静電的相互作用および水素結合に起因する高いアニオン認識能と、幅広い構造多様性を有している。本研究では、カチオン中心の電荷密度および触媒分子全体の水素結合供与能と触媒活性・立体制御能の相関理解に焦点を絞り、評価のための反応系として(1)Lewis塩基システムであるハロシリケートの付加反応、(2)ブレンステッド塩基システムであるシアノスルホンのMannich型反応、および(3)水溶性反応剤システムであるシアン化物イオンの付加反応を設定した。ハロシリケートを鍵中間体をとするアジリジンの不斉ハロゲン化反応では、触媒分子に電子求引性置換基を導入するに従って、エナンチオ選択性が向上する傾向が見られた。電子求引性置換基の導入は、カチオン分子の水素結合供与能の増大につながり、イオン間距離がより緊密になった結果、立体選択性が向上したと考えられる。適切な立体修飾を施したトリアゾリウム塩を触媒として用いることで、トリメチルシリルクロリド、またはブロミドを反応剤とするアジリジンの高立体選択的ハロゲン化反応の開発に成功した。本触媒システムは、前例のない2,2-二置換アジリジンの速度論的光学分割へも応用可能であり、潜在的に高い実用性を有していると同時に、シリケートを鍵活性種とする有機合成化学に新たな知見をもたらしたという点で意義深い。また、トリアゾリウムイオンの高いアニオン認識・捕捉能を活用することで、(2)シアノスルホンの高エナンチオ選択的Mannich型反応及び(3)シアン化物イオンの不斉付加反応の実現に成功した。特に、(3)の研究では、従来のオニウムイオンにはない、トリアゾリウム固有の性質を活用することで高立体選択性の獲得に成功した。
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