研究課題/領域番号 |
23750111
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
柴富 一孝 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (00378259)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | フッ素化合物 / 不斉合成 / トリフルオロメチル基 / シキミ酸 / 光学活性触媒 |
研究概要 |
薬物の一部にフッ素原子を導入することで体内動態や生理活性を向上させる例が多く報告されている。特にトリフルオロメチル基に代表されるフルオロメチル基(-CF3,-CHF2,-CH2F)は,薬物の基本構造を大きく変化させること無く脂溶性・代謝安定性を向上させることが可能であることから薬物設計において有用な置換基である。一方で、フルオロメチル化合物の合成法は十分に確立されているとは言えず、特に不斉炭素上への同置換基の導入は至難であることから有効な手法の開発が急務とされている。このような背景から,不斉点にフルオロメチル基を有する有機小分子の不斉合成法の開発を企画した。我々はフルオロメチル化合物のビルディングブロックとしてβーフルオロメチルアクリル酸エステルに着目し、本化合物をジエノフィルとした不斉Diels-Alder反応を行った。Diels-Alder反応によって得られるシクロヘキセン骨格は様々な医薬品の基本骨格となる。具体的にはまず、キラルオキサザボロリジン触媒存在下でβートリフルオロメチルアクリル酸エステルとジエン類との反応を行い、目的とする含フッ素シクロヘキセン誘導体を99% eeで得た。また同様にβージフルオロメチルアクリル酸エステル、およびβーモノフルオロメチルアクリル酸エステルを用いた反応においても目的の付加体を99% eeで得ることに成功した。さらに得られた付加体をシキミ酸誘導体、二環性エノン等の生物活性物質の中間体となる化合物へ誘導化することに成功した。何れの化合物も従来の手法では製造が極めて困難な化合物である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
不斉Diels-Alder反応を利用して不斉炭素上にトリフルオロメチル基を有するシクロヘキセン化合物を99% eeというほぼ完全な光学純度で合成することに成功した。この純度は医農薬品の合成原料として十分である。また同様に、ジフルオロメチル基、モノフルオロメチル基を持つ化合物の合成にも成功した。何れも従来の手法では極めて合成困難であった化合物である。さらに、得られた化合物の薬物原料への誘導化にも成功した。具体的には、トリフルオロメチル基を持つシキミ酸エステル、およびジフルオロメチル基を持つ二環性エノンの合成を行った。前者はインフルエンザ治療薬等、後者は生物活性天然アルカロイドの含フッ素アナログの原料となる。現在までの研究の達成度は良好と言える。上述のように、1)フルオロメチル基を不斉炭素上に持つキラルシクロヘキセン類のエナンチオ選択的合成法を開発したこと、2)得られたシクロヘキセン類の薬物原料への誘導化に数例成功したこと、がその理由である。
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今後の研究の推進方策 |
βーフルオロメチルアクリル酸エステルに変わる新たな含フッ素ビルディングブロックとして,βーフルオロメチルアクロレインの利用を検討する。このようなα,β―不飽和アルデヒド類は,一般的にアクリル酸エステル類に比べて反応性が高い。そこで本アルデヒドを利用して前年度に開発したDiesl-Alder反応の基質適用範囲の拡大と触媒料の低減をはかる。またα,β―不飽和アルデヒドは有機分子触媒を利用した不斉分子変換反応により様々な光学活性化合物へ誘導化することができる。そこで本アルデヒドを原料として有機分子触媒を用いた不斉マイケル付加型反応を行い、不斉炭素上にフルオロメチル基を持つキラル小分子を合成する。さらに得られた付加体を生物活性物質の合成へと応用する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
有機合成化学研究の性格上,研究推進には多種多量の有機反応剤,有機溶媒,反応用ガラス器具を必要とする。さらに光学活性触媒開発を行うことから高価な光学活性試薬の購入が必須となる。このため,金額の大部分を消耗品費としてこれらの購入に当てる。具体的な使用計画は以下の通り。有機合成反応用試薬(500千円)、有機合成反応用溶媒(600千円)、合成反応用ガラス器具(200千円)、HPLC 用光学活性カラム(200千円)、学会参加用旅費(100千円)、論文投稿費用(100千円)
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