末端アルケンからの逆マルコフニコフ求核攻撃を経るWacker型酸化による高効率なアルデヒド合成法は,工業製法であるヒドロホルミル化に比肩し得る本質的に優れた方法である。ヒドロホルミル化よりも生成するアルデヒドの炭素鎖は1原子短く,また合成ガスを使用せず安全性が高い点が特徴として挙げられる。本研究では,最終酸化剤として分子状酸素を用いた,穏和な条件下でのビニルアレーン類の逆マルコフニコフ求核攻撃を経るWacker型酸化が進行することを見出した。パラジウム錯体触媒存在下,溶媒としてアルコール,添加剤として水,p-キノンおよび銅塩を用い,酸素雰囲気下において反応を行ったところ,アリールアセトアルデヒド類が中程度から良好な収率で生成した。アルデヒド:ケトン生成比は最高で20:1以上となった。また,本反応の反応時間を延長したところ,アリールアセトアルデヒド類はさらに酸化され,徐々にベンズアルデヒド類が生成することがわかった。最終的にはアリールアセトアルデヒド類はほぼベンズアルデヒド類へと転化した。従って本研究では,ビニルアレーン類を出発原料として,反応時間およびその他の各種反応条件をコントロールすることにより,逆マルコフニコフ求核攻撃を経るWacker型酸化によるアリールアセトアルデヒド類合成と,酸化的開裂を経るベンズアルデヒド類合成の両反応をそれぞれ選択的に進行させることに成功した。また本反応条件は,ジオール類を求核剤として用いたビニルアレーン類からの末端アセタール合成反応にも適用可能であることが明らかとなった。
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