医薬品や天然物等の生理活性物質から,共役系高分子や液晶などの機能性有機材料に至るまであらゆる分子の機能発現に必須の構成単位であるビアリール化合物の新しい効率的かつ直裁的合成法として,本研究では鉄反応剤を用いたラジカル種の発生方法の開発およびベンゾキノンやヘテロアレーンの直接的アリール化反応の開発を目的とした。ラジカル種を効率的に発生する遷移金属錯体や配位子などの組み合わせを種々検討した結果,硫酸鉄(II)とペルオキソ二硫酸カリウムの組み合わせが,アリールボロン酸からアリールラジカルを発生させるために最も効果的であることを見つけた.さらに,本ラジカル発生法を用いて,ベンゾキノン類の直接アリール化反応を検討し,多様なモノアリールベンゾキノン類を効率的に形成できることを発見した.他方で,本ラジカル発生法はピリジンやピラジン等のヘテロアレーン類の直接アリール化反応にも効果的であることがわかった.本反応は,従来の遷移金属触媒を用いたクロスカップリング反応では達成困難なハロゲン等の反応性官能基をもつ反応基質を使用することができ,また含水条件でも実行可能であるラジカル反応の独自性を示した汎用性の高い直接アリール化反応である.また,これらのラジカル型直接アリール化反応の特性を活用し,Botrylladine Bとナトリウルチャンネル阻害剤の形式全合成にも成功した.以上のように、本研究では,鉄反応剤とペルオキソ二硫酸カリウムの組み合わせを使用することにより,遷移金属触媒を用いた古典的なクロスカップリングとは異なり,温和な反応条件かつ反応性は高いが官能基変換能に優れたハロゲン官能基反応原料に導入出来る新しいカップリング反応を開発した.
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