本申請研究では、材料に対する外部刺激を可視化する手法として、凝集誘起型発光(AIE)色素を用いることを着想した。AIE色素を用いて刺激応答材料とする試みは、On-Off応答可能な発光材料が期待できる上に、有機修飾によってAIE色素とマトリックスの結合様式なども自在に設計できる。このシステムを実現する方法として、代表的なAIE色素であるテトラフェニルエテン(TPE)を様々な高分子材料と結合し、刺激印加環境下での発光挙動について詳細に検討を行うことで、応答性発光を効率的に得るための条件の最適化を行った。本年度は、TPEにビニル官能基を導入し、ポリシロキサンの架橋剤として用いることで、AIE色素を導入したエラストマーの作製に成功した。具体的には、4-テトラヒドロキシフェニルエテンにWilliamsonエーテル合成を施すことにより、1-ブテニル基を修飾し、Karstedt触媒を用いたポリシロキサンとのヒドロケイ素化反応を経てエラストマーを得た。得られたエラストマーは、エラストマーが膨潤する溶媒に浸漬するとAIE由来の発光が消失するのに対し、貧溶媒に浸漬すると発光は保持された。これは溶媒によってエラストマー内部の分子鎖の広がりが変化することで、架橋剤であるAIE分子周りの運動性が変化したことによると考えられる。また、このエラストマーは温度に対しても発光強度が劇的に変化し、乾燥状態で低温にすると発光強度が増大する様子が見受けられた。これも上記のようにAIE分子周りの運動性の変化の結果であると考えられる。
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