研究課題/領域番号 |
23750119
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
桑折 道済 千葉大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (80512376)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 糖鎖高分子 / 高分子微粒子 / コア-シェル粒子 / 表面開始リビンググラフト重合 / レクチン認識 / カプセル材料 |
研究概要 |
糖鎖を表面に有する材料は,レクチン(糖鎖を特異的に認識するタンパク質)や病原菌の検出材料として有用である。当該年度は,糖鎖高分子からなるグライコカプセルの作製ならびに高感度なレクチン認識材料としての利用を目指して下記2点の結果を得た。(1)コア材料となる高分子微粒子の新規作製法の開発本研究では,糖鎖高分子シェル層の厚みのみならず,カプセルの内部空間の大きさを任意にデザインしたグライコカプセル作製を目標としている。内部空間の大きさ制御にはコアとなる高分子微粒子の大きさの制御が重要となる。本研究では,各種乳化重合法による高分子微粒子の作製を行なうとともに,より環境に優しい高分子微粒子の新規合成法の開発に成功した。自然界からとれる酵素(西洋ワサビ由来ペルオキシダーゼ)を触媒とした酵素触媒重合法に着目し,これまでにほとんど例のない酵素触媒ミニエマルション重合,酵素触媒ソープフリー乳化重合,酵素触媒分散重合を開発し,50-500 nm程度の範囲で粒子径を制御した高分子微粒子が得られることを見いだした。(2)表面開始グラフト重合による糖鎖高分子シェル層の付与とレクチン認識能の最適化コアとなる高分子微粒子上から表面開始リビング重合により糖鎖高分子シェル層を構築し,その厚み・組成がレクチン認識に与える影響を検討した。グラフト重合には,汎用性の高い原子移動ラジカル重合(ATRP)と光照射のみで簡便に重合が行なえる光イニファーター重合を選択した。各重合の最適条件を検討し最終的に仕込みモノマー濃度や重合時間を変えることで,10-200 nmの糖鎖高分子シェル層を制御・構築することに成功した。調製したコア-シェル粒子は導入したラクトース残基に対応するレクチンと特異的に結合し凝集体を形成した。レクチンと粒子との結合・凝集は,糖鎖高分子シェル層が短いほど急速に進行することがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度においては,当初の計画通りコア粒子調整法による内部空間の制御と表面開始ATRP法による糖鎖高分子シェル層の制御に成功した。コア粒子調整においては従来法による高分子微粒子調整だけでなく,酵素触媒重合法を用いた新たな反応系の構築にも成功した。この手法は,高分子微粒子を得る材料化学的な側面のみならず,従来ほとんど報告例のない不均一重合場で酵素触媒重合が適応できることを示したものであり,今後他の酵素やモノマーを利用した新しい高分子微粒子の合成への展開が期待できる。また,糖鎖高分子シェル層の付与においては,計画していた表面開始原子移動ラジカル重合(ATRP)を用いたコア-シェル粒子の作製に成功した。しかし,水中でかつ粒子表面のような滑らかな界面から行なうATRPを制御することは非常に困難であることがわかった。そこで,より光照射のみで簡便に重合が行なえる光イニファーター重合に着目して実験系を変更した。その結果,光照射時間により糖鎖高分子シェル層の厚みを制御できることがわかり,さらに字ブロック高分子からなるシェル層の構築も容易に制御できることが示され,シェル層厚みや組成変化がレクチンなどのタンパク質との相互作用に与える影響を詳細に検討することが可能となった。以上より本研究は概ね順調に進行していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに,グライコカプセル調整において重要なコア材料の作製と糖鎖高分子をグラフトしたコア-シェル粒子の精密合成に成功した。次年度は作製したコア-シェル粒子をもとに,溶媒抽出によるコア部位の除去を行ない,内部空間と糖鎖高分子シェルの厚みをそれぞれ任意にデザインしたグライコカプセルの作製を行なう。作製したグライコカプセルの評価は,SEM,TEM,DLSにより行う。また,IR,XPS測定によりカプセルを構成している組成を評価する。また,レクチン認識能に大きく影響すると考えられるカプセルを形成している糖鎖高分子部位の比表面積測定を,比表面積・細孔分布測定装置により測定し,実際にどのくらいの吸着サイトがあるのかを測定し,吸着サイト量とレクチン認識能への影響を検討する。さらなる高感度化を目指し,糖鎖高分子末端に蛍光物質を導入したグライコカプセルを作製する。本研究で用いる表面開始ATRP法では,末端ハロゲン基の交換反応により,生成高分子鎖末端に機能団を導入できる。そこで,糖鎖高分子の重合後に蛍光物質であるダンシル基誘導体を添加することで,高分子末端に水溶性の蛍光物質を導入し,グライコカプセルに蛍光特性を付与する。作製したカプセルの評価はSEM,TEM,DLSにより行い,レクチン凝集の様子を,蛍光分光光度計,蛍光顕微鏡を用いて観察する。また,当該年度に確立した光イニファーター重合を用いた系では容易にジブロック高分子シェル層を導入できることから,複数の機能団を有する多機能性グライコカプセルの作製へと展開する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は,実験に必須の薬品,ガラス器具等の消耗品費として60万円を使用予定である。また,学術成果発表として,国内・国外学会での発表を予定しており,これらの旅費として30万円を計上する予定である。次年度参加発表の予定の国内学会は第61回高分子学会年次大会,第61回高分子討論会,第17回高分子ミクロスフェア討論会であり,国際学会にはPOLYMERS in DISPERSED MEDIA - PDM 2012を予定している。また,論文投稿時の英文校閲,投稿料などの諸経費として10万円を計上し,計100万円を次年度研究費として使用する予定である。
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