研究課題/領域番号 |
23750123
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
飯田 拡基 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (30464150)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | らせん構造 / キラル / ポリフェニルアセチレン / 高分子不斉触媒 |
研究概要 |
本研究では、広範な反応に良好な不斉触媒能を発揮する天然由来の光学活性有機分子であるシンコナアルカロイド類に注目し、その誘導体をポリフェニルアセチレンの側鎖に導入した種々の光学活性らせん高分子を合成するとともに、そのらせん構造や不斉触媒能について検討を行った。シンコナアルカロイドである、シンコニジンおよびシンコニン、キニーネ、キニジンのヒドロキシル基をアミノ基に変換した誘導体を出発原料として用い、アミド結合を介してフェニルアセチレン部位を修飾したモノマーをそれぞれ合成した。次に、ロジウム触媒による重合を行い、側鎖にシンコナアルカロイド誘導体とアミド基リンカーを有する種々の光学活性ポリフェニルアセチレンを得た。得られたポリマーの円二色性(CD)および吸収スペクトルを測定したところ、共役主鎖骨格に由来する長波長の吸収領域に明確なコットン効果が観測され、シンコナアルカロイドのキラリティーを反映して、主鎖に一方向巻きに片寄ったらせん構造が誘起されたことが明らかとなった。次に、それらの触媒能を検討した結果、ベンズアルデヒドのHenry反応の不斉触媒として利用できることを見出した。なかでも、キニーネ誘導体を側鎖に有するらせん高分子は最大94% eeという高い不斉選択性を発揮した。一方で、対応するモノマーを用いた場合は、28% eeと低い不斉選択性を示した。さらに、このらせん高分子に圧力を加えることでポリアセチレン主鎖のcis構造をtrans構造に変換し、らせん構造を崩壊させたポリマーを作成した。得られたポリマーを触媒として用いたところ、18% eeと大幅に不斉選択性が低下した。これらの事実は、らせんキラリティーが不斉選択性に重要な役割を果たしていることを明確に示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画で予定していた通り、ポリフェニルアセチレンをテンプレートとして用いたシンコナアルカロイド誘導体のらせん状配列制御に成功するとともに、らせん構造に特異的な触媒能の発現を確認できたため、順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
シンコナアルカロイド誘導体に加え、スルホンアミド、チオウレア、ヒドロキシル基などの協奏的に働く複数の水素結合サイトを修飾した種々のらせん高分子を合成する。得られたらせん高分子触媒の不斉選択性や触媒活性について、様々な触媒反応を検討し、詳細に調べる。また、得られた高分子不斉触媒のらせんの巻き方向やピッチが、熱や溶媒、金属やゲスト化合物の添加といった外部刺激により変化するどうかについて調べる。同時に、これらのらせん構造の動的制御を通じて、発現する不斉選択性や触媒活性が制御できるかどうかについても検討する。さらに、らせん構造の原子間力顕微鏡(AFM)による直接観察を行い、らせん構造と不斉触媒能、触媒活性との相関について検討し、さらに優れた高分子らせん触媒を合成するための指針を得る。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度はより大量のらせん高分子を合成し、種々の不斉反応を検討する予定であるため、前年度からの繰越額とあわせ、合成用試薬やガラス器具類、実験用消耗品を購入するとともに、AFM測定などに用いる分析用消耗品の購入を計画している。さらに、研究成果を国内及び外国で積極的に発表するための旅費として使用する。
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