今後の研究の推進方策 |
平成23年度に得られた成果を基にして、平成24年度はクモの糸において紫外線により分解されやすいアミノ酸残基を特定し、クモの糸の高い紫外線耐性メカニズムを解明する(達成目標(3))。絹糸タンパクにおける紫外線感受性の高いアミノ酸残基については既に報告があり、UV-A*(~325 nm)に対してはSer、Tyr、Pheが分解され易いことが明らかにされている(A. Kuwabara, et al., J. Seric. Sci. Jap., 39, 281-284 (1970))。同様の実験をクモの糸に対して行い、紫外線感受性の高い残基を特定する。アミノ酸組成の分析機器は所属研究機関に無いため、委託測定を行う。アミノ酸組成分析は絹糸タンパクについて報じられている通り、塩酸により加水分解を行った後、色素で修飾してHPLCにより分析する手法が一般的である。分析を委託する場合、糸タンパクを加水分解して提出することになるが、クモの牽引糸は加水分解を受けにくいため、クモの糸タンパクに対して同じ条件でサンプリングができるかわからない。最適な加水分解反応条件の探索に時間を費やすことになるだろう。光感受性の高い残基が特定されればアミノ酸配列と照らし合わせることでどういう切れ方をするかが分かり、なぜクモの糸が高い紫外線耐性を持つのかという問いに対し、答えが得られると考えられる(目標(3)の達成)。また、平成24年度は、平成23年度と同様に積極的に学会で成果発表を行うと同時に、クモの糸の紫外線による劣化機構について得られた結果を取りまとめ、成果を科学論文に投稿する。
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次年度の研究費の使用計画 |
<消耗品について> 紫外線照射装置(SUNTEST CPS/CPS+)は研究機関で所有しているが、付属のランプ(\20,000)は約8,000時間で寿命を迎える。一度の実験で約100時間の連続的な照射を行うため、80回で交換が必要となる。時年度はUV-A*、UV-B*、UV-C*発生用のランプが寿命を迎えるため、交換が必要である。試薬購入に使用する研究費の内訳の主なものについては以下の通り。電気泳動用ゲル(\20,800×10枚)、染色キット(銀染\12,000, CBB\7500)、分子量マーカー(高分子\23,700, 低分子\20,000)。採糸装置を自作するための費用として、電気ドリル代金(\20,000)が計上される。論文を投稿する雑誌は未定であるが、Chem. Lett.誌の料金(2頁50部\20,000)と大きな差異はないと考えられる。<旅費、謝金等について> クモからの採糸には技術と時間が必要である。報告者一人で必要量を集めるのは難しく、クモが成熟する時期(夏~秋)に、補助員を雇用し採糸を依頼することで研究の効率化を図る。6~11月にかけて、週3日、日給8,000円で雇用すると年間576,000円となる。対外発表として、1年間で2回の国内学会発表、1回の国際学会発表、2報の論文投稿を想定している。アミノ酸組成分析は23年度の研究目標の達成には必須の測定であるが、測定装置を所有していないため分析委託費用が生じる。1サンプルの測定に必要な費用が\70,000であり、6サンプルで\420,000を要する。
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