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2012 年度 実施状況報告書

クモの糸の紫外線による特異的劣化機構の解明研究

研究課題

研究課題/領域番号 23750133
研究機関奈良県立医科大学

研究代表者

松平 崇  奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (20570998)

キーワードクモの糸 / タンパク質 / SDS PAGE / 電気泳動 / 分子量 / 紫外線
研究概要

本研究の目的は、クモの糸がなぜ紫外線に強い特異的な性質を持つのかを明らかにすることである。当該年度では、①化学的還元がクモの糸タンパクの分子量を低下させることを見出した。また、②紫外線照射によりクモの糸タンパクの一部が高分子量化することを発見した。項目毎に成果を報告する。
①SDS電気泳動法においては一般に、変性剤によりタンパク質の高次構造を破壊した上で還元剤によりS-S結合を切断し、ランダムコイル状にして分子量を決定する方法が用いられる。平成23年度に行った化学的還元法による測定では、クモの糸タンパクの分子量は約27万と決められた。平成24年度に報告者は還元剤を加えずに糸タンパクの分子量測定を試みた。その結果、クモの糸の分子量は50万を超えていることが判明したが、その値は決定できなかった。そこで報告者は、最適なゲル濃度を探索し、還元前の分子量はおよそ60~70万であることを決定した。一方、還元に伴う分子量変化は絹糸では見られなかった。以上より、クモは糸タンパクを多量化させることにより紫外線に対する耐性を獲得している可能性が示唆された。
②報告者は紫外線照射前後のクモの糸の分子量を、還元剤を使用せずに測定した。①で確立した測定方法を用いて分子量50万以上の領域に注目したところ、紫外線照射により糸タンパクの一部が高分子量化していることを発見した。この結果は、紫外線によりクモの糸タンパクが架橋している可能性を示唆しており、クモの糸が紫外線で強化されるメカニズムに密接に関与していると考えられる。
報告者はこれらの研究成果を取りまとめ、平成24年度は国内学会と国際学会で合計4回の発表を行い、1件の原著論文(査読有り)を投稿した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

本研究では、クモの糸がなぜ高い紫外線耐性を持つのか、その原因を明らかにすることを目的としている。
報告者は、平成23年度の冬から平成24年度の春にかけて、クモの糸の電気泳動測定の条件を検討してきた。一般に、ゲル法では50万以上の高分子量の測定は困難とされているが、新しい手法を用いることにより50万を大きく超えるクモの糸タンパクの分子量測定も可能になることがわかってきた。これまでは、糸タンパクを化学的に還元してバラバラの分子にして測定を行っていた。報告者は平成24年度に、還元されていない、より実際に近い条件でクモの糸の分子量を調べる方法を確立した。その結果、還元後の糸タンパクの分子量がおよそ27万であるのに対し、還元前の分子量はおよそ60~70万であることが判明した。還元前後の大きな分子量変化は、絹糸タンパクなどでは見られない現象である。クモは糸タンパクを多量化させることによって紫外線に対する耐性を獲得している可能性が示唆され、なぜクモの糸が紫外線で劣化しにくいのかという本研究の主題に対し、一つの答えが得られたと評価できる。
報告者はさらに研究を進め、平成24年度の秋には紫外線の照射がクモの糸の分子量を増大させている可能性を見出した。この知見は、クモの糸が紫外線により強化されるメカニズムを明らかにするための大きな手がかりになると考えられる。報告者はもう一年間研究を続ければ、分子レベルで紫外線強化メカニズムまで解明できると考え、一年間の研究の延長を希望した。
このように、紫外線劣化機構に対しては一定の回答を与え、紫外線強化機構にまで研究を進めていることから、一年間延長したものの、現在までの達成度は当初の計画以上に進んでいると評価することができる。

今後の研究の推進方策

平成25年度は、①紫外線劣化機構の解明、②紫外線強化機構の解明、という2つのテーマを軸に研究を進める。
①平成24年度に、化学的に還元されていないクモの糸がクモの糸が多量化により紫外線耐性を獲得している可能性を示唆した。しかしながら、どのような結合方式で、何量体を形成しているのかは、未だ解明されていない。平成25年度は、還元反応を詳細に追跡することで、中間体の有無を調べる。もし、3つ以上のタンパク分子が複合体を形成しているならば、還元前後のタンパクの中間の分子量を持つ中間体が生成するはずである。ゆっくりと還元反応を進行させ、分子量を追跡することで何量体を形成しているかを調べる。
②平成24年度に、一部のクモの糸タンパクの分子量が紫外線照射により増大している可能性を示した。紫外線照射により発生したラジカルが、この分子量増大に寄与しているならば、関与するアミノ酸残基は20種類の天然アミノ酸とは異なる構造に変化していると考えられる。クモの糸において紫外線感受性が高い残基を特定するために、アミノ酸組成分析を行う。アミノ酸組成の分析機器は所属研究機関に無いため、委託測定を行う。光感受性の高い残基が特定されれば、アミノ酸配列と照らし合わせることでどのようにして分子量増大が起こっているかが推定され、クモの糸が紫外線により強化されるメカニズムを分子レベルで解明することができると期待される。
また、平成25年度は前年度と同様、クモの糸の紫外線耐性について得られた結果を取りまとめ、積極的に学会で発表を行うとともに、成果を科学論文として投稿する。

次年度の研究費の使用計画

<消耗品について> 紫外線照射装置(SUNTEST CPS/CPS+)は研究機関で所有しているが、付属のランプ(\20,000)は約8,000時間で寿命を迎える。一度の実験で約100時間の連続的な照射を行うため、80回で交換が必要となる。次年度はUV-A*発生用のランプが寿命を迎えるため、交換が必要である。試薬購入に使用する研究費の内訳のうち、主なものについては以下の通り。電気泳動用ゲル(\20,800×10枚)、染色キット(銀染\12,000, CBB\7500)、分子量マーカー(高分子\23,700, 低分子\20,000)。また、採糸装置を自作するための費用として、電気ドリル代金(\20,000)が計上される。論文投稿料金はPolymer Journal誌の料金(3頁100部、約\43,000)を基準に算定した。
<旅費、謝金等について> クモからの採糸には技術と時間が必要である。報告者一人で必要量を集めるのは難しく、クモが成熟する時期(夏~秋)に、補助員を雇用し採糸を依頼することで研究の効率化を図る。7~10月にかけて、週3日、日給8,000円で雇用すると年間384,000円となる。対外発表として、1年間で2回の国内学会発表、1回の国際学会発表、2報の論文投稿を想定している。アミノ酸組成分析は研究目標の達成には必須の測定であるが、測定装置を所有していないため分析委託費用が生じる。1サンプルの測定に必要な費用が\70,000であり、4サンプルで\280,000を要する。

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2013 その他

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] Effects of UV irradiation on the molecular weight of spider silk2013

    • 著者名/発表者名
      Takashi Matsuhira, Keizo Yamamoto and Shigeyoshi Osaki
    • 雑誌名

      Polymer Journal

      巻: 45 ページ: 1167-1169

    • DOI

      10.1038/pj.2013.41

    • 査読あり
  • [学会発表] クモの糸タンパク質は多量体か?

    • 著者名/発表者名
      ○松平崇 大崎茂芳
    • 学会等名
      第61回高分子学会年次大
    • 発表場所
      パシフィコ横浜
  • [学会発表] クモの糸の分子量に対する紫外線の影響

    • 著者名/発表者名
      ○松平崇 大崎茂芳
    • 学会等名
      第61回高分子討論会
    • 発表場所
      名古屋工業大学
  • [学会発表] Effects of UV Rays upon Molecular Weight of Spider Silk

    • 著者名/発表者名
      Takashi Matsuhira and Shigeyoshi Osaki
    • 学会等名
      Joint Symposium, 5th International Symposium on Polymer Materials Science (ISPMS'12) & 8th Osaka University Macromolecular Symposium (OUMS'12)
    • 発表場所
      大阪大学(豊中キャンパス)
  • [学会発表] Effects of UV Rays upon Molecular Weight of Spider Silk

    • 著者名/発表者名
      Takashi Matsuhira and Shigeyoshi Osaki
    • 学会等名
      The 9th SPSJ International Polymer Conference (IPC2012)
    • 発表場所
      神戸国際会議場
  • [備考] 奈良県立医科大学 化学教室

    • URL

      http://www.naramed-u.ac.jp/~chem/

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公開日: 2014-07-24  

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