本研究では、クモの糸がなぜ高い紫外線耐性を持つのかを明らかにすることを目的としている。 平成23年度、報告者はジョロウグモから糸を大量に収集する方法を確立するとともに、クモの糸の電気泳動測定の条件を検討した。クモの牽引糸はほとんどの溶媒に不溶であるため、分子量測定は非常に困難である。しかし、高濃度のリチウム塩水溶液に溶かして処理を行えば、電気泳動法により分子量を測定できることが分かった。紫外線照射前後のクモの糸と絹糸の分子量測定の結果から、クモの糸は絹糸に比べて1.7倍も紫外線劣化しにくいことを明らかにした。 一般的にSDS電気泳動法では、糸タンパクを化学的に還元してバラバラの分子にして測定を行う。報告者は平成24年度に、より天然に近い未還元状態でクモの糸の分子量を調べた。その結果、還元された糸タンパクの分子量がおよそ27万であるのに対し、未還元の糸タンパクの分子量はおよそ60~70万であることが判明した。還元による大きな分子量変化は、絹糸タンパクでは見られない現象である。クモは糸タンパクを多量化させることによって紫外線に対する耐性を獲得していることが示唆された。 平成25年度には紫外線照射前後の糸タンパクのアミノ酸組成を比較した。その結果、紫外線により最も顕著に含有量が減少する残基はヒスチジン基であることが判明した。また、電気泳動法と銀染色法を併用して紫外線照射後のクモの糸タンパクの微量成分について調べたところ、クモの糸タンパクの一部において、紫外線照射により分子量が増大していることが分かった。この結果は、紫外線がクモの糸タンパクの一部を架橋している可能性を示しており、クモの糸が紫外線で強化されるメカニズムに密接に関与していると考えられる。
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