研究課題/領域番号 |
23750148
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
中薗 和子 東京工業大学, 男女共同参画推進センター, 助教 (30467021)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | ロタキサン / フォルダマー / π共役系高分子 / 分子スイッチ / 分子認識 |
研究概要 |
本研究ではフォルダマー挙動を示す共役系ポリマーの側鎖にキラルなロタキサンを導入してフォルダマー形成を制御し、さらにロタキサンスイッチによるπ集積系を制御することを目的としている。そこで側鎖にロタキサン構造を有する高分子量かつ十分ならせん持続長をもつような共役系ポリマーの合成が必須であることから、ロタキサンモノマーの重合によるポリマー化を検討した。m-置換芳香族およびその拡張構造は本質的にフォルダマー構造であり、そのポリマーもフォルダマー特性を有すると考えられている。23年度はm-フェニレンジエチニレンの酸化カップリング重合について検討を行った。モノマーにはクラウンエーテルを輪成分として有するロタキサンを用いた。さらにロタキサンのスイッチングの動作制御部位となる、軸成分中のアミン部位についても2級および3級アンモニウム塩、3級アミン誘導体を合成して重合性について精査した。検討の結果、3級アミン型ロタキサンモノマーは良好な重合性を示し、最適条件では分子量2万以上のポリマーを与えた。また、このポリマーを酸処理すると、定量的にアミン部位にプロトン化が起こり、クラウンエーテルが軸中のアンモニウム塩部位を包接することがNMRから確認された。これに塩基を加えるとクラウンエーテルは、窒素原子との電子反発により主鎖近傍に移動し、選択的にロタキサン部位のスイッチングが行えることが確認された。この知見をふまえて光学活性なビナフチル基を含むクラウンエーテルを輪成分とするロタキサンモノマーから重合して得たポリ(m-フェニレンジエチニレン)の構造をCDおよびUVスペクトルから評価した。その結果、主鎖近傍に輪成分が移動可能な3級アミン(塩基性条件)では、貧溶媒中のCDスペクトルからキラルな高次構造の形成が示唆され、らせん制御とスイッチングが側鎖ロタキサンで制御可能なことを検証できた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
輪成分に不斉官能基を有するロタキサンモノマー、および分子不斉なロタキサンモノマーから各々酸化カップリング重合により、側鎖にロタキサン構造をもつポリ(m-フェニレンジエチニレン)を合成した。また、ポリマー中におけるロタキサンの分子スイッチ挙動を検討した結果、低分子系と同様に良好な応答性を示した。また、ポリ(m-フェニレンジエチニレン)は、輪成分が主鎖の近傍に存在する場合には、貧溶媒中でフォルダマー構造(内孔をもつ巨大らせん)を形成し、輪成分を遠ざけるとフォルダマー構造からランダム鎖へと変換が起こることを確認した。分子スイッチの効果に加えて、ポリマーの極性の変化も関与している可能性があるものの、ロタキサン中の不斉官能基から空間を介して、フォルダマーの巻き方向を制御出来ることを見出すことができたため、当初の計画の初年度の目的は達成したといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
ロタキサンスイッチによるフォルダマー構造の制御に加えて、溶媒条件により内孔をもつらせん構造と伸びきり鎖のねじれらせんと考えられる2種類のキラルな高次構造が誘起されていることが、これまでの結果から示唆されている。そこで、これらの高次構造についてより確定的な構造情報を明らかにすることを一つめの課題に掲げる。分析方法としてはAFMやX線構造解析などを用いることを計画している。また、オリゴマーを段階的に合成して結晶構造解析も試みる。また、酸や塩基を滴定してロタキサンのスイッチング挙動についても詳細に検討するが、不斉官能基がフォルダマーの構造変換挙動へ与える影響についても、置換基の異なるポリロタキサンを合成して検討する。主鎖のポリ(m-フェニレンジエチニレン)は弱い蛍光を示すことが観察されており、蛍光スペクトル観察から二種類の高次構造の光電子特性を解明することも計画している。これらの構造検討に目処が付き次第フォルダマーの内孔を利用して分子認識による機能発現に向けて、ロタキサンユニットの分子設計の変更とゲスト包接能の探索を行う。
|
次年度の研究費の使用計画 |
研究費の使用が効率的に行えたため昨年度は実支出額と所要額に差額が生じた。今年度も合成・反応・特性評価が中心となるため、経費の多くを試薬および硝子器具費に充てる。特に分子認識の研究では基本的にNMR、UV, 蛍光スペクトルを利用する予定であるが、包接されたゲスト分子はNMRでうまく検出できないことも多いため、溶液用のIRやカロリメーターの利用なども含め、分析装置への経費の使用も計画している。また、情報収集および成果報告、ディスカッションのために、関連する国内外の学会(モレキュラー・キラリティー、高分子討論会、基礎有機化学討論会、IPC2012など)への参加のための旅費の支弁を計画している。
|