グラフェンシートをナノ加工することで、アームチェアおよびジグザグ端と呼ばれる典型的な端構造を作り出すことができる。それら端周辺の電子状態はバルク電子状態から大きく変調される。アームチェア端近傍では、電子波の谷間散乱に由来する定在波状態が発生する一方、ジグザグ端では端境界に局在した非結合パイ電子状態(エッジ状態)がフェルミレベル近傍に生じる。このエッジ状態は局在スピンを有するため、ナノ炭素材料の化学活性や多様な電子(磁気)的特性に深く関わっている。本研究では、酸化ジグザグ端構造を作製し、酸化構造に依存した電子状態について、プローブ顕微鏡高分解能観察と第一原理計算の協業により、原子レベルでの構造―電子状態相関の解明を行った。初年度はグラフェンを酸化することでナノサイズグラフェンを作製し、その伝導特性がサイズや端構造に強く依存することをプローブ顕微鏡観察から明らかにした。次年度では、酸化グラフェンシートを還元することで、酸素で化学修飾された面内欠陥構造を作製した。プローブ顕微鏡による原子マニピュレーションにより、欠陥周りの非結合パイ電子状態の可逆なON/OFFスイッチングが起こることが分かった。最終年度では、第一原理計算により、可逆な酸素結合様式の変化がON/OFF状態をもたらすこと確認した。その結果、グラフェンの非結合パイ電子状態、すなわち化学活性が機械的外力によりスイッチングできることを見出した。
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