研究課題/領域番号 |
23750153
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
生方 俊 横浜国立大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (00344028)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 表面レリーフ / アントラセン / 光物質移動 / パターニング |
研究概要 |
光誘起物質移動現象の実用化のために、これまでに全く報告のない新規な光誘起物質移動材料の開発を進めた。それは、物質移動時にはソフトで動きやすい低分子の状態でありながら、パターニング構造形成後には、安定な高分子へと変化する二状態安定材料であり、その二状態間を光により可逆的にスイッチできる光連結性低分子化合物である。当該年度は、可逆的に光連結および光開裂するアントラセン基二つを、アルキル基、アルキルエーテル基およびオリゴエチレングリコール基で接続した合計4種類の新規光連結性分子群を合成した。これらの内、アルキルエーテル基で接続した化合物について、光誘起物質移動現象が起こることを見いだした。この光連結性低分子化合物のアモルファス薄膜にフォトマスクを介して365 nmの紫外光を照射した結果、フォトマスクの周期と一致した表面レリーフが形成した。露光時における温度を検討した結果、40-50℃において移動効率が最大となることがわかった。この条件において、表面レリーフの形成過程を追跡したところ、約30分間の露光で150 nm以上の高低差のレリーフが形成することがわかった。この時の露光強度は、約0.1 mW cm-2以下と従来の材料系に用いていた露光強度に比べて、3桁ほど小さく、物質移動時にソフトな低分子化合物を用いることで大変高感度に物質移動が誘起されることを実証した。また、本アモルファス薄膜は、未露光部において結晶化が観察されたものの、露光部においては結晶化が観察されなかった。このことは露光部においては、光による高分子量化反応が進行したため、薄膜の安定性が向上したことを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、(1)光連結性分子群の設計および合成、(2)薄膜の作製と光応答特性の評価、(3)光パターニング構造形成、の3つの課題の実施計画を設定し、研究を進めてきた。(1)の計画においては、4つの新規光連結性分子群を設計し、合成できた。(2)において、4つの新規光連結性分子群の薄膜特性を評価した結果、アルキルエーテル基で接続した化合物が薄膜の安定性および光応答特性に優れることがわかった。さらに(3)において、選択した化合物において高感度に光パターニング構造の形成に成功した。以上より、いずれの課題においてもほぼ計画通りに進行し、研究目的は概ね計画通りに達成された。
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今後の研究の推進方策 |
光連結性のビスアントラセン化合物を用いることで、高感度に光物質移動を誘起し、レリーフが形成されることを見いだした。また形成したレリーフは安定性が向上することを見いだした。今後は、引き続き「光連結性分子群の設計および合成」、「薄膜の作製と光応答特性の評価」、「光パターニング構造形成」の検討をさらに進めることで、光パターニング形成効率の高い分子を見いだす。また、形成した光パターニング構造の熱安定性、および構造消去のための光照射に対する応答性を評価し、最高のパフォーマンスを持つ分子を見いだす。また、高いパフォーマンスを有する分子群と分子構造との相関を明らかにし、分子設計・合成へのフィードバックを行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度も、ほぼ当初の研究申請書通りに、光連結性分子の合成に必要な試薬・溶媒・ガラス器具、および試作したレリーフ構造を評価するための測定機器の消耗品費を計上する。また、昨年度は、予定が合わずに海外出張を行わなかったため、今年度に使用する予定の研究費が生じた。今年度は、当初の研究申請書の計画通りに、国内および海外の学会発表を行うための、旅費を計上すると共に、論文として成果発表をスムースに行うために、英文校正費用を計上する。
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