光誘起物質移動現象の実用化のために、これまでに全く報告のない新規な光誘起物質移動材料の開発を進めた。それは、物質移動時にはソフトで動きやすい低分子の状態でありながら、パターニング構造(表面レリーフ)形成後には、安定な高分子へと変化する二状態安定材料であり、その二状態間を光によりスイッチできる光連結性低分子化合物である。それらの化合物を合成し、表面レリーフを創製し、その構造の安定性を評価した。 当該年度は、光連結するアントラセン基二つを、エステル基を介して接続した新規光連結性分子を合成し、アントラセン基を一つしか持たないモデル化合物と比較検討を行った。 両化合物の表面レリーフ形成能について調査したところ、マスクを介した紫外露光によって表面レリーフ形成が可能であった。また、いずれも未露光部から露光部への物質移動によって表面レリーフが形成されることがわかった。これらの表面レリーフは、従来の材料に比べて大変わずかな露光エネルギー量でも形成された。さらに、露光部においては、紫外光による二量化および高分子量化反応が進行することを確認した。 形成された表面レリーフの熱安定性を調査するために、表面レリーフ形成後、室温から加熱した。その結果、昇温に伴ってどちらの表面レリーフの消失が観測された。また、両化合物の単量体のガラス転移温度は、ほぼ同じであるにもかかわらず、形成された表面レリーフの平滑化は光連結性化合物の方が高い温度で起こることがわかった。これは、光連結性化合物では高分子量化が起こるために、二量化までしか起こらないモデル化合物よりも形成された表面レリーフの安定性が向上したためであると考えられる。 以上の結果より、高分子量化の起こる光連結性化合物は、高感度に表面レリーフを形成する特性を持ちながら、形成された表面レリーフの安定性は向上することが実証された。
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