研究課題/領域番号 |
23750154
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
小塩 明 三重大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70362358)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | ナノカーボン / カーボンナノチューブ / カーボンナノファイバー / 炭素ナノ粒子 / 磁性 / アークプラズマ / CVD |
研究概要 |
研究代表者らが開発したナノカーボン構造体形成のための2つの新規成長法である「金属フリーアークプラズマ加熱法」と「金属フリー熱化学気相成長法」のうち、平成23年度は「金属フリーアークプラズマ法」によって得られるナノカーボン構造体の生成条件の検討と、磁気特性評価を行った。研究実施計画のとおり金属フリー多層カーボンナノチューブの生成条件と磁気特性の検討を行う過程で新たに、グラファイトナノプレート(大きさが約300 nmで50層程度のグラフェン様構造体)の高効率形成条件を見出した。ある条件では純度はほぼ100%あり、金属フリーかつ極めて高純度での生成が可能であることがわかった。また、純度はわずかに減少するものの、約98%でさらに大量の生成も達成した。不純物はバルーン状粒子と多面体粒子であり、これらもナノカーボン構造体の一種であった。そこで、生成直後の未処理の純度100%グラファイトナノプレートの磁気特性評価をおこなったところ、約0.1 kOeの保磁力を観測することができた。 さらに「金属フリー熱化学気相成長法」で得られるカーボンナノファイバーに関しては、磁気特性評価をおこなう前に不純物の有無をより明確にするため、X線光電子分光法による元素分析をおこなった。その結果金属不純物はもとより、反応用石英管からの混入の可能性が大きいと予想されたケイ素もまったく検出されなかった。わずかに(約0.02%)硫黄がカーボンネットワークにドープされていることが明らかとなった。これらの構造と磁気特性との関連を明確にする上で、新たに重要な知見を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「金属フリーアークプラズマ加熱法」によって得られるナノカーボン構造体の生成条件の検討は、全検討内容の半分以上完了した。また、未処理試料の磁気特性評価も実施した。現在までに、比較的大きな保磁力などいくつかの測定データを得ることができている。さらに再現性や、構造や組成に起因するものであるのか見極めるためにも、詳細な構造解析とともに、熱処理試料との比較も重要な検討課題であると考えている。 また、「金属フリー熱化学気相成長法」で得られるカーボンナノファイバーに関しては、X線光電子分光法による元素分析により、カーボンネットワークに硫黄原子がドープされているという知見を得ることができた。この硫黄置換構造がナノカーボン磁気特性にどのような影響を与えるのか、極めて興味深い検討課題を新たに見出すことができた。 以上のように当初計画はおおむね順調に進展していると言える。その一方で、新たな検討課題も浮上し、2つの生成法で得られるナノカーボン構造体の詳細な構造解析と磁気特性評価を効率よくコンカレントに推進する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
「金属フリーアークプラズマ加熱法」によって得られるナノカーボン構造体の残りの生成条件の検討(アルゴン・水素ガス混合比変化の一部とアーク放電電流の変化)を行う。さらに得られた試料を熱処理することで、ナノカーボン構造体の結晶性などを変化させ、磁気特性との関連性を調べる。特に平成23年度中に検討した未処理の試料の磁気特性評価と比較しながら、ラマン分光、X線回折、X線光電子分光、熱重量分析などの分析結果にもフィードバックし同時に検討を進める。 「金属フリー熱化学気相成長法」で得られるカーボンナノファイバーに関しても同様に、引き続き未処理試料と熱処理試料の構造と磁気特性との関連性について検討を進める。特にカーボンネットワーク中に存在する硫黄原子の効果に着目し、含有率と磁気特性との関連性を注視する。 本研究で対象としているナノカーボン構造体は金属フリーであることから、磁気特性評価はもとより、様々な複合材料の候補としても有力である可能性がある。特に高性能二次電池の金属不純物をまったく含まない負極材料して有望であるかもしれない。この点も念頭に、金属フリーナノカーボン材料が次のステップへつながる基礎となる研究を推進する。
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次年度の研究費の使用計画 |
「金属フリーアークプラズマ加熱法」による試料作製には、原料として炭素電極を使用するため次年度研究費としても購入予定である。また、アルゴンや水素などのガスも必要である。熱処理を行う際には不純物の混入を防ぐために、高品質かつ清浄な石英管や石英ボートを使用しなければならないため、これらも物品費として使用することを計画している。 「金属フリー熱化学気相成長法」でも反応用に石英管を使用する。この石英管は実験回数が多いほど著しく劣化するため、こまめに交換する必要がある。またエタノールや二硫化炭素などの原料試薬も購入予定である。 生成物評価の常套手段の一つとして透過型電子顕微鏡観察を用いている。そのための試料保持用グリッドや電子顕微鏡用フィルムにも研究費を使用する。
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