研究課題/領域番号 |
23750156
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
東口 顕士 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90376583)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 有機ラジカル / 分子エレクトロニクス / 減衰定数 / 交換相互作用 |
研究概要 |
分子エレクトロニクスは1分子レベルの電気的物性を捉え応用する物である。重要な物性であるコンダクタンスG(Ω-1)および減衰定数β(Å-1) は、G = G0 exp(-βh)(h:分子長)で表されるが、有機中性ラジカルの交換相互作用Jも、Gと同様にJ = J0 exp(-βh)の関係式を有し、減衰定数β (Å-1)も既知のβと同程度(p-フェニレンβ = 0.51 Å-1)である事を以前確認した。加えてこの手法は感度が高いことから、電気的測定法が困難な他の系、例えば飽和炭化水素系に対して有効であることを見いだした。環状飽和炭化水素は単なる-CH2-の集合体ではなく、立体的な寄与が存在すると考えられており、これらがβに与える影響を調べるために各種化合物を合成・測定することを目標とした。 飽和籠状炭化水素であるビシクロ[2.2.2]オクタンについて、DFT計算および実測のJ値を用いてβ値の決定を行った。その結果、直鎖アルキル (β~1.2 Å-1)と比較し、大きな減衰定数 (β~2.1 Å-1) を有することを見いだした。幾何構造の違いを補正しても1.5倍の減衰効果を有することが確認された。事前の予測では、籠内部のσ*伝導またはσ伝導経路の増加(1本→3本)による伝導性向上の可能性を検討していたが、実際には逆であり、σ結合の歪みに由来したスピンの安定性の変化などを検討中である。 またオリゴフェニレンエチレン系化合物を合成してJ値を決定した。この化合物は電気伝導についてはホッピング機構が報告されているが、ニトロニルニトロキシドラジカルの交換相互作用ではホッピング伝導を起こさないことが期待されている。β値はJの勾配から求めるため、ユニット数の異なる複数の化合物が必要であり、今後合成を進めていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初予定していたビシクロ[1.1.1]ペンタン構造を有する一連の籠状炭化水素化合物が得られなかった。文献既知の化合物であるためノウハウ不足と考えられ、情報収集をしつつ追加での検討を予定している。
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今後の研究の推進方策 |
籠状炭化水素ビシクロ[1.1.1]ペンタン系化合物の合成に関する情報収集と合成条件の検討を行う。また追加で検討を始めたオリゴフェニレンエチニレン系化合物を用いた電子伝導とスピン交換相互作用の差異についての検討も行うため、誘導体の合成とESR測定を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初計画では有機合成を平成23年12月までに行う予定であったが、合成困難であったため文献再調査および学会での情報収集を行い、新たに有機合成を開始した。そのために5ヶ月ほどの研究計画遅延が発生した。このため測定に関する物品費支出予定が平成24年度に繰り越された。当該年度においては、この測定と合わせて当初計画通りの測定・解析を行う。
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