π共役系化合物はトンネル電流伝導性を有するため、分子エレクトロニクス材料として期待されている。その電気伝導性G(抵抗の逆数)は分子長、つまりベンゼン環などのユニット数が増えるごとに指数関数的に低下し、その割合は減衰定数βを用いてG = G0 exp(-βh) で表せる(ただしhは分子長)。 両末端にニトロニルニトロキシドラジカルを有するフェニレンエチニレン分子ワイヤを合成し、ユニットの減衰定数βを求めた。ユニット数の異なるいくつかの化合物を合成し、ESRスペクトルの実測とシミュレーションを利用して交換相互作用を求め、その変化から減衰定数βを0.38 A^-1と求めた。この結果は、中性ラジカルのスピン-スピン交換相互作用が分子コンダクタンスと同程度の減衰定数を有したことから、評価法として適切であることを確認できた。その一方で相違点も確認された。分子長が充分長い場合の電気伝導はトンネリングではなくホッピングになるが、本論文ではホッピング禁制のラジカルを使用し、結果は予測通りトンネリング挙動を示した。このように電気伝導度Gと交換相互作用Jの間には類似点だけでなく相違点も存在し、今後はこれらの解析から電気伝導性に関する新たな知見を得ることを目標とする。
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