半導体ナノ粒子(量子ドット)は、直径が10ナノメートル前後の半導体材料であり、電子と正孔が狭い領域に閉じ込められるため、バルク材料にはない光学特性や電子特性が発現する。現在広がりつつある蛍光体応用に限らず、LEDやレーザーから太陽電池に至るまで、特殊な電子構造を活用する研究に注目が集まっている。その中で最も重要なのは、サイズと組成の均一なナノ粒子を製造する技術と、それらを基板上にコーティングする技術である。 本研究は、半導体ナノ粒子の粒径制御を実現する手法として、I-III-VI族ナノ粒子の合成条件がナノ粒子形状や光特性、長期安定性に与える影響を調査した。また、合成後のナノ粒子を光酸化溶解させることによってサイズを制御する「光エッチング法」を、3元系のナノ粒子に適用することを試み、反応条件の考察や改善を行った。また、ナノ粒子を基板上に塗布する技術に関して研究を行い、スピンコーティングやインクジェットによって均一な薄膜を形成できる溶媒条件や、成膜後の形態に大きな影響を与える配位子の選択に関して、一部に従来のII-VI族系ナノ粒子によるモデル実験も踏まえながら研究を行った。 3元系ナノ粒子の合成は、そのほとんどが高沸点溶媒中で加熱した金属塩に硫黄やセレンの錯体を加える方法で行われる。2種類の金属塩のカルコゲンとの反応性を揃えることが重要で、本研究では150℃程度というII-VI族ナノ粒子の合成温度(300℃)と比べてかなり低温の条件で、さまざまな粒径領域のものを合成することに成功している。光エッチングに関しては、水溶液中における硫化銅インジウムナノ粒子の光酸化溶解を起こすことに成功した。
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