研究課題/領域番号 |
23750162
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
田中 大輔 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (60589399)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 金属錯体 / ナノ粒子 / スピンクロスオーバー / 薄膜 |
研究概要 |
スピンクロスオーバー(SCO)錯体は、熱・圧力・光などの外的な刺激によってスピン状態が変化することが知られている。またその相転移は双安定性に由来するヒステリシスを伴うため、SCO錯体はメモリーなどのデバイスへの応用が期待されてきた。一方、現代のデバイスは極めて微小化が進んでおり、材料の加工・微小化が必須の技術となっている。そのため、実際にSCO錯体をデバイスとして利用するためには、錯体の加工・微小化技術が必要不可欠である。しかし、一般に室温付近でヒステリシスを持つようなSCO錯体は、架橋配位子によって金属イオンを連結した配位高分子であり、双安定挙動を残しながら微小加工を行う技術は未だ途上にある。また、温度以外の比較的弱い外的摂動を利用して情報の書き込みを行う手法の開発についても未だに発展途上であり、情報の読み込みと書き込みの両方において、多くの研究課題が残されている。本研究では、比較的高温に温度ヒステリシスを持つSCO配位高分子、{[FeII(trz-R)3]X2}(trz=1,2,4-triazole)誘導体のナノ粒子を合成し、スピンコート法によって薄膜化する汎用的な手法の開発に成功した。ナノ粒子の合成では界面活性剤を使用した逆ミセル法を用いる手法で行った。合成したナノ粒子をエタノールで洗浄し、界面活性剤を可能な限り取り除いたのちにスピンコート法を用いて、基板上にナノ薄膜を作製した。この薄膜をSEMで観察するとナノ粒子が基盤上に均一に膜化されていることが確認できた。さらにSPring-8の薄膜評価ラインBL-13XUにおいて作製した薄膜の回折測定をin-plane法で温度制御下行うことにより、錯体が薄膜状態においてもスピン状態の転移を行うことを確認し、その転移温度を決定することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、室温付近でSCOを示す配位高分子、[FeII(R-trz)3]A2 (R-trz = 4-R-1,2,4-triazole) を用いた。この化合物群は、配位子の置換基 (R) とカウンターアニオン (A-) を変えることで、相転移温度や温度ヒステリシスの大きさ (共同性の指標) を変えることができるため、室温付近で駆動するデバイスが作製可能であると期待した。実際、本研究で薄膜化した材料は、カウンターアニオンや配位子の種類に非常に強く依存した相転移挙動を示すことが本研究から確認できた。さらに、これらの化合物ではナノサイズ化しても共同性が完全には失われないことも合わせて確認した。デバイス化には[FeII(R-trz)3]A2の簡便な製膜法が要求される。本研究では、エマルジョンを利用した方法により合成される [FeII(R-trz)3]A2の均一なナノ粒子を用い、ゾル-ゲル法による特殊なスピンコート法での薄膜作製法を確立することに成功した。作製した薄膜の評価はXRD、温度可変吸収スペクトル、AFM及びFE-SEMにより行い、その相転移挙動を精密に決定することに成功した。また、錯体デバイスに光応答特性を付与するため、配位子にアゾベンゼンを一部導入することを検討した。末端にチオール基を持つアゾベンゼン誘導体の合成を終了し、光異性化を起こすことも確認している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、前年度に得られた結果を元に、デバイス構造と分子性材料を最適化していく。本研究で最適化するべき主なパラメーターは以下のようにまとめられる。1.薄膜作製条件:ナノ粒子の合成条件、スピンコートの条件、[FeII(R-trz)3]A2の組成を変化することで、相転移挙動と膜構造の相関を検討する。2.デバイス作製条件:電極の構造とサイズを最適化する。現時点での予備実験の結果から、薄膜の導電性が非常に低いことが明らかとなっている。このような課題を克服薄るために、薄膜とカーボンナノチューブを複合化することを行う予定である。3.表面化学修飾:修飾分子の構造と特性、分子の固定方法を検討する。現在はアゾベンゼン分子をチオールの配位で結合する手法を検討しているが、アンカー部、アゾベンゼン部ともに最適な構造を探索する。これらの要素を系統的に変化させ、それぞれの影響を緻密に評価することで、センサーデバイスの特性を明らかにする。特に、薄膜デバイスにおける[FeII(R-trz)3]A2の集合構造と電子状態を精密に評価するために、各種スペクトル測定及び顕微鏡観察と共に、SPring-8のBL13XU(薄膜評価ライン)で界面の微小な変化をその場観測する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の実験研究で必要となるのは、薄膜およびアゾベンゼン分子を合成するための試薬、デバイス化のために必要なシリコン基板と金電極、カーボンナノチューブなどの消耗品が主となる。また、SPring-8での測定を引き続き行うため、ビームライン使用料と旅費も計上する予定である。研究成果の発表のため、学会参加費とそれに伴う旅費及び論文投稿に伴う諸経費を使用予定である。
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