研究課題/領域番号 |
23750169
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研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
相見 順子 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, 研究員 (80579821)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 高分子化学 / フタロシアニン / ブロックコポリマー |
研究概要 |
広いπ平面を持つディスク状分子であるフタロシアニンは、n型半導体として広く知られており、光・熱に安定であることから有機エレクトロニクスへの応用が数多く研究されている。本研究では、フタロシアニン分子を高分子薄膜中で三次元的に集積化させ、光電変換デバイス材料へと応用する事を目的とする。光電変換効率の向上のためには、電荷分離と電子及びホール輸送を効率よく行うことのできる有機薄膜の形成が材料設計の鍵となる。そこで理想的な薄膜構造の達成を目指し、汎用性ブロックコポリマーの自己集合を利用する新しい分子デザインを提示した。具体的には、末端にフタロシアニンを有するブロックコポリマーを、原子移動ラジカル重合(ATRP)並びにクリックケミストリーを用いて合成した。フタロシアニン分子は高分子薄膜中でπ-π相互作用により自己集合しカラム状の集合体を形成する。同時に、ブロックコポリマー薄膜はヘキサゴナルシリンダー構造を形成することを各種測定により明らかにした。シリンダーのドメイン間隔はブロックコポリマーの分子量により調節でき、25~40 nmのドメイン間距離を有するミクロ相分離構造を作成した。これらの結果は、スピンコートで得られる高分子薄膜中に有機半導体分子を集積化し並べることのできるため、有機トランジスタや有機薄膜太陽電池用高分子材料の新しい材料設計指針となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、研究計画に沿って、有機半導体分子であるフタロシアニンを含むブロックコポリマーの合成を行い、分子量の異なるポリマーライブラリーを作成した。ブロックコポリマーの合成は、リビングラジカル重合の代表例である、原子移動ラジカル重合(ATRP)を用いて検討し、ジブロックコポリマーPMMA-b-PS を合成した。ジブロックコポリマーとプロパルギル基を有するフタロシアニンとの1,3-双極子付加環化反応を行い、フタロシアニンを末端に持つ分子量の異なるポリマーの合成に成功した。得られたフタロシアニンポリマーの薄膜の構造は、微小角入射小角X線散乱測定(GISAXS)、透過型電子顕微鏡 (TEM)観察、原子間力顕微鏡(AFM)の観察により、シリンダー状のミクロドメインを有することを確認した。ドメイン間距離を計算すると、分子量を変えることによりドメイン間隔を25~40 nm程度、調節できることが分かった。初年度の目的であった、目的物質合成と同定、さらに薄膜構造のコントロールを達成した。
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今後の研究の推進方策 |
まず、得られたブロックコポリマー薄膜の導電性材料としてのの評価を行う。キャリア移動度を見積もるため、電界効果トランジスタ(FET)を作成し、新規デバイスとしての有用性を評価する。また、時間分解マイクロ派電気伝導度法(TRMC)による移動度評価も検討する。さらに、フタロシアニン含有ブロックコポリマーにアクセプター分子を導入する。薄膜形成後にアクセプター性分子を浸透させる、あるいは第二のブロック部位に共有結合で導入する方法を検討する。得られるブロックコポリマーを用いて、有機薄膜太陽電池デバイスとしての評価を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度、国際学会への参加を行わなかったため、その分を次年度の研究費に加えて使用する。次年度は新規材料の迅速な作成のため、研究員への謝金を予定している。また、有機薄膜太陽電池デバイスの評価に重点を置き、ITO電極などの消耗物品を購入する。得られる薄膜の微視的観察のために、顕微鏡(走査型電子顕微鏡や原子間力顕微鏡)観察用の消耗物品(TEMグリッドや AFMのカンチレバー)が随時必要となる。さらに、研究成果の配信、最新研究動向の調査を兼ねて、国内・国際学会への参加を計画している。
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