本研究課題では、細胞膜表面の受容体に対して光刺激により架橋できるツールを開発した。このツールを用いて、受容体クラスターを細胞膜上に人工的に形成させることで、生細胞へのシグナル入力を人為的に操作する手法の開発を行った。同時に細胞内にあるシグナル下流分子の、シグナル入力前後の動態を解析することで、受容体クラスター形成の細胞内シグナル伝達反応に対する生理的意義を理解することを目指した。本研究課題において、光感応性タンパク質CRY2を付加した受容体の発現および光活性化したCRY2と結合するタンパク質CIB1の精製に成功した。すなわち、光刺激により受容体を架橋するツールは、ほぼ完成に近づいている。また、対象としているシグナル下流分子(Aktキナーゼ)の生細胞1分子追跡には既に成功した。申請者は、Aktキナーゼの1分子動態解析の結果から、Aktの細胞膜滞在時間を刺激前後で算出した。細胞膜上の受容体クラスター形成が起こると、個々のAkt分子の細胞膜滞在時間が2倍に長くなることを明らかにした。この結果は従来の概念とは大きく異なる結果である。従来の概念では、リクルートされるAkt分子の数は増加するが、細胞膜滞在時間は変化しないと考えられていた。しかし実際にはAktの細胞膜滞在時間が延びたのである。これは従来の概念を覆し、受容体クラスターにより下流分子の動態が制御されていることを示唆する重要なデータである。以上のように、本研究では受容体クラスター形成の光制御法の開発に向けて大きな進歩を遂げた。また、受容体クラスターの生理的意義についての定量的な解析にも成功した。
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