研究課題/領域番号 |
23750185
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
坂本 隆 北陸先端科学技術大学院大学, マテリアルサイエンス研究科, 助教 (80423078)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | イメージング / 19F MRI / DNA / RNA / 分子プローブ |
研究概要 |
本研究では生体内で核酸を直接イメージングすることを目的とし、生体バックグラウンドの低いフッ素核磁気共鳴(MR)による核酸イメージングが可能な、新規分子プローブの創製を目的としている。既に標的配列を持つDNAが存在するときにのみフッ素MRシグナルを示す、OFF/ON型のプローブの開発に成功しているが、検出感度の低さ(数μM)が問題であった。平成23度は、検出感度および検出精度の改善を目的に、(1)キラル制御された新規フッ素ラベル剤の開発、および(2)レシオ型プローブの創製を試みた。(1)キラル制御された新規フッ素ラベル剤の開発従来型のフッ素ラベル剤(2-アミノ-1,3-プロパンジオールを使用)では、ラベル剤合成時に鏡像異性体が生成していたため、フッ素MRシグナルが2本線となり、検出感度を低下させる一因となっていた。そこで、合成時の鏡像異性体生成を防ぐため、非等価な水酸基を持つリンカーとして (R)あるいは(S)-3-アミノ-1,2-プロパンジオールを用いた。アミノ基に3,5-ビストリフルオロ安息香酸を縮合、トリチル化、アミダイト化を経て、新規フッ素ラベル剤の合成に成功した。各フッ素ラベル剤をオリゴDNAの5’末端に導入し(収率93%以上)、精製後、フッ素NMRを測定した結果、いずれも先鋭な1本線のシグナルを示し、従来型でみられた2本線は観測されなかった。従来型のフッ素ラベル剤でDNAラベル後のS/N比を比較した結果、それぞれ63(R体)、70(S体)、12(従来型)となり、約5.8倍のS/N比の改善に成功した。(2)レシオ型プローブの創製6-アミノヘキサノールリンカーを介して3,5-ビストリフルオロ安息香酸を導入したステムループ型プローブが、標的核酸添加によりフッ素MRシグナルのケミカルシフトを変化させることを見出した。これを用いた核酸の定量イメージングの可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H23年度内に、約5.8倍のS/N比の改善に成功したことから数百nMの標的核酸の検出が可能になると期待される。現在、OFF/ON型のプローブについてフッ素ラベルをタンデムに導入することによる検出感度の改善をめざし、プローブの合成を進めており、次年度内に目標の10倍程度の検出感度改善を達成する。また、本プローブによる細胞内RNAの検出に向けたプローブ配列のデザイン・合成にも着手しており、次年度の研究に用いることを予定している。一方で、レシオ検出型のプローブの可能性を見出したことから、より確度の高い、新しい核酸定量イメージングプローブの開発可能性が示唆された。以上から、おおむね順調に進展していると評価している。
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今後の研究の推進方策 |
23年度の研究成果として、5.8倍の検出感度改善を達成し、さらに標的核酸のレシオイメージングの可能性を見出した。そこで今後は、(1)細胞内標的RNAのOFF/ON検出およびレシオ検出を目指した条件検討を行うとともに、(2)更なる検出感度向上を目指したプローブ開発を行う。最終的に本プローブの細胞内RNA検出能力について評価し、目標を達成する。(1)細胞内標的RNAのOFF/ON検出およびレシオ検出ヒト28S rRNAを標的としたプローブを合成し、白血病細胞HL-60から抽出したRNAを添加したときのフッ素NMR測定結果から、プローブのrRNA検出能力を評価する。また種々のコントロール配列のプローブを導入した場合との比較から、rRNA検出の選択性を評価する。同様に変異型Kras mRNAおよびGAPDH mRNAを標的とするプローブを合成し、膵臓ガン由来細胞から抽出したRNAを添加し、フッ素NMR測定結果から、プローブのmRNA検出能力を評価する。さらに、非細胞系で機能評価し、最適化したプローブを、ストレプトリシンOなどの核酸導入法を用い生細胞(HL-60、Capan-1、BxPC-3など)内に導入する。OFF/ONプローブ(2)更なる検出感度向上を目指したプローブ開発すでに合成に着手しているフッ素ラベル剤を複数導入したプローブの合成が完了し次第、フッ素ラベル導入数と検出感度改善効果の相関を調べ、この手法の有用性を評価する。また、また化学反応に基づく信号増幅系を組込んだ検出・イメージングシステムの構築にも着手し、高感度、高精度なイメージングが可能なプローブの分子設計法、合成法を確立する。
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次年度の研究費の使用計画 |
23年度末にフッ素ラベル剤合成スキームの変更にともない試薬購入のキャンセルを行ったために小額の未使用額が生じた。24年度はこれをプローブ合成のための経費に組み入れて使用する。また、細胞内RNA検出能力の評価に用いる細胞(HL-60, Capan-1, BxPC-3)の購入費用として240千円、培養に関わるプラスチック消耗品・試薬類として250千円を充当することを計画している。さらにプローブ合成のための溶媒・試薬類として300千円、HPLCによる大量精製用のカラムに160千円を充当し、成果発表・情報収集を目的とした学会発表(日本化学会第93年会)の旅費として100千円を、また、共同研究学生へ支払う謝金として50千円を充当することを計画している。
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