研究課題/領域番号 |
23750187
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
水野 稔久 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90345950)
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キーワード | 共役性高分子 / 蛋白質 / 酸化還元応答プローブ |
研究概要 |
分子量やアミノ酸配列の異なる天然蛋白質を利用してポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)/蛋白質複合体を作製し、用いる蛋白質の選択によりPEDOT部位の酸化還元挙動にどのような影響がみられるか検討を行った。種々の天然蛋白質との複合化を検討した結果、γ-グロブリン、RNaseAに関して水溶媒中で可溶な複合体の調製に成功した。透過型電子顕微鏡によりその形態を観察したところ、COMP-H6、COMP-D6を用いたときと同様に、直径40-50 nm程度のナノ粒子となっていることが確認された。また吸収スペクトル測定から、蛋白質由来の280 nm付近の吸収帯と共に、510 ~540 nmにPEDOTに特徴的な吸収帯が確認された。さらにこちらを6-アミノヘキサンチオールの自己組織化単分子膜で修飾した金基板上にキャストし、サイクリックボルタンメトリー測定を行ったところ、用いる蛋白質によってPEDOT部位の酸化還元電位が異なり、γ-グロブリンで-90 mV(vs.SHE)、RNaseAでは-190 mV(vs.SHE)とCOMP-H6(40 mV vs.SHE)と異なる酸化還元電位を示すことが分かった。すなわち、用いる蛋白質を選択することで様々な電位に応答するPEDOT/蛋白質複合体の調製に成功したといえる。次に、特にこの中で電流応答の大きかったRNaseA/PEDOT複合体に関して、蛍光色素FITCの表面修飾を行った。これにより、電子移動型の酸化還元応答蛍光プローブの開発を期待した。酸化状態、還元状態でFITC修飾RNaseA/PEDOT複合体の、FITC由来の518 nmの蛍光強度の比較を行ったところ、酸化状態から還元されることにより、蛍光強度が2.5倍上昇することが確認された。すなわち、PEDOT部位の酸化状態に応じて蛍光強度の異なるプローブの開発に成功したといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初、ポリチオフェン/蛋白質複合体そのものの蛍光強度が、ポリチオフェン部位の酸化状態の変化により大きく変化することを期待していたが、十分な重合度を持ったポリチオフェンと蛋白質との複合体を、水系溶媒中で作製することが困難であることが、実験を進めて行くにあたり明らかとなってきた。そこでチオフェン誘導体よりも、より重合性が高い3,4-エチレンジオキシチオフェン(EDOT)をモノマーとして用い水溶媒中でのPEDOT/蛋白質複合体の調製を行う事により、明確な酸化還元応答を持つPEDOT/蛋白質複合体の調製に成功した。この段階の遅延のために、外部電位に応答し蛍光強度変化を示すFITC修飾を行ったPEDOT/蛋白質複合体(FITC/PEDOT/蛋白質複合体)の調製、ならびに細胞内での電位応答挙動の検討が遅れてしまった。しかし今年度までに、異なる電位に応答するPEDOT/蛋白質複合体の調製と、それを用いた蛍光応答性酸化還元プローブの開発に成功しているため、期限延長をお願いした次年度で、実際に細胞内で電位を感知し、蛍光強度の変化が可能か評価を行いたい。また当初の実験計画では予測していなかったが、実際にどの程度細かい電位の変化に応じ、FITC/PEDOT/蛋白質複合体が蛍光強度変化を起こすかin vitroでの検討が必要と思われるため、こちらの検討も行いたい。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの検討により、電位の変化を認識し蛍光強度の変化するFITC 修飾PEDOT/蛋白質複合体(FITC/PEDOT/蛋白質複合体)の作製に成功している。しかしながら、実際に蛍光強度が、どの程度外部環境の細かい電位の違いに応答して変化するのか、定量的な評価が必要である。これまでに、ITO電極のような透明電極上にキャストし、電位の変化に応じた蛍光強度変化の検出を試みてみたが、電極反応に関与できるFITC/PEDOT/蛋白質複合体の濃度の低さや、電極との電子移動などの効果により、細かい電位変化に応じたFITC/PEDOT/蛋白質複合体の蛍光強度変化の定量的な評価が困難であった。そこで、電界紡糸法により調製されるポリマーのナノファイバー中にこれらを内包させることにより、in vitroでの、これらの評価を行いたい。また一方で、実際にこのFITC/PEDOT/蛋白質複合体を細胞内に導入し、電位に応答した蛍光強度変化の評価を行いたい。ゼータ電位測定から、我々が作製を行ったFITC/PEDOT/蛋白質複合体は負の表面電荷をおっていることが確認されているため、カチオン性の遺伝子導入キャリアにより表面修飾を行い、細胞内への導入を行う。用いる培養細胞には、まずはHeLa細胞などを用い、細胞導入後の経時変化に伴う蛍光強度の変化を、蛍光顕微鏡観察を通して行いたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
FITC 修飾PEDOT/蛋白質複合体(FITC/PEDOT/蛋白質複合体)の細胞内での機能評価を行うために、細胞培養に関連する試薬、細胞内への導入試薬などを購入し利用したい。もちろんFITC/PEDOT/蛋白質複合体の追加合成に必要な、蛋白質試薬や、ナノ粒子の精製に要するクロマトグラフィーの担体なども併せて必要である。
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