研究課題
一般的に、溶液中フリーの蛋白質分子同士の分子間電子伝達反応では、その電子移動反応が起こる際にそれら蛋白質同士で瞬間的(半減期:~μ秒)に準安定な複合体を形成し、その短いタイムスケール中に様々な電子移動メカニズムに関わる反応・変化(例:蛋白質分子構造の変化、酸化還元電位の変化等)がそれぞれの蛋白質内で起こることが知られている。しかしながら、その半減期の短さから複合体状態のままで詳細にそれらの反応を解析・追跡することが非常に困難なため、今もなおその詳細については未解明な部分が多い。そこで、本研究では電子伝達パートナー分子同士を人工的に共有結合で結ぶことで安定な複合体を構築し、その複合体のX線結晶構造解析、酸化還元電位測定、そしてストップトフロー法等による電子移動反応速度論的解析を行う事で、これまで未知の領域であった"蛋白質複合体形成時に起こる電子伝達反応メカニズム"について新しい知見を得る事を目的とした。本年度は大きく分けて2つの実験を遂行した。1つ目は、Grabarekらのクロスリンク法を参考に電子伝達パートナー分子同士を共有結合で結んだ人工電子伝達蛋白複合体を構築し、その単離と精製、そして結晶化を試みた。その結果、小さいながらも良質な六角柱状晶を得ることに成功した。今後、さらなる結晶化条件の検討しX線回折実験を行う予定である。2つ目は、天然に存在する電子伝達パートナー融合蛋白質におけるドメイン間での電子移動反応時にどのような分子内構造変化が起きているのかを解析するために、レーザー光を反応トリガーとした白色ラウエ法による時分割X線結晶構造解析を試みた。その結果、様々なタイムスケールで収集した各回折イメージを詳細に調べた結果、光照射後μ秒オーダーの時間領域で明確な回折強度変化を捉える事に成功した。現在、そのデータを用いた構造解析の最中である。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度は限られた時間内で可能な限り結晶化条件の探索を行ったことで計画よりも早期に蛋白質結晶を得る事に成功した。また、国内だけに限らず海外の実験施設も利用することでより本研究課題を進行させることができた。
今後の推進方策として、さらなる良質な結晶化条件の探索とX線回折実験を遂行する。得られた高精度な立体構造情報と、次年度に計画している酸化還元電位や電子移動反応の測定結果を照らし合わせ、より信憑性の高い電子伝達メカニズムについて検討を行う。
本年度に海外実験施設の使用を優先させたため、複合体状態での酸化還元電位を測定するための電気化学測定システムを次年度以降に購入することを計画している。
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生産と技術
巻: 64 ページ: 76-79
Acta Cryst. F
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10.1107/S1744309111013297