研究課題/領域番号 |
23750192
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研究機関 | 宇部工業高等専門学校 |
研究代表者 |
廣原 志保 宇部工業高等専門学校, 物質工学科, 准教授 (70413804)
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キーワード | X線増感剤 / trans-2置換グルコース連結ポルフィリン / 活性酸素除去剤 / 薬剤取り込み量 / 細胞毒性 |
研究概要 |
本研究課題では、人体に影響のない程度の低線量のX線でガン細胞のみを死滅させるX線増感剤の開発を進めている。本年度は、昨年度までに見出した候補薬剤であるPdやPt含有trans-2置換グルコース連結ポルフィリンの問題である高い光細胞毒性効果に注目し、光細胞毒性効果の要因である活性酸素を除去する薬剤の開発を行った。 Mn含有ポルフィリンの合成:活性酸素除去剤として知られるMn-SODを模倣し、ガン細胞へ高い取り込み量を示すtrans-2置換グルコース連結ポルフィリンにマンガンイオンを導入したtrans-2置換グルコース連結ポルフィリン(Mntrans-2)の合成を行った。 細胞への薬剤取り込み試験:ラット胃癌様変異株(RGK)(1x10^6 cells/well)に1.0 microMのMntrans-2を添加し24時間薬剤接触後の薬剤取り込み量を調べた。比較物質として金属の導入されていないH2trans-2及びMn4を用いた。その結果、Mntrans-2はH2trans-2と同様にMn4よりも非常に高い取り込み量を示した。 細胞毒性試験:合成したMntrans-2は、薬剤濃度5 microMにおいて光、暗所下のどちらにおいても細胞毒性を示さなかった。ポルフィリンは光下において一重項項酸素を発生し細胞を殺傷する、光細胞毒性効果を有する。この光細胞毒性効果がX線増感剤の大きな問題となっている。そこで我々が開発したもっとも高い光細胞毒性効果を有するH2trans-2に、Mntrans-2を共存させ光照射することで細胞生存率がどうなるかを調べた。その結果、Mntrans-2を共存させることで細胞生存率が向上した。このことから、H2trans-2の光照射の際に発生する一重項酸素を除去することができたと推測された。 24年度は、光細胞毒性の要因となる活性酸素除去剤の開発に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、複雑な構造かつ溶解性の悪い薬剤を活性酸素除去剤として考えており、その薬剤をX線増感剤に結合することを考えていた。しかしその薬剤は水溶性が異なるので、ガン細胞への薬剤取り込み量に大きく影響を及ぼす恐れがあった。しかし、今回合成した活性酸素除去剤は、基本骨格がtrans-2置換体であり、ガン細胞株を用いたin vitro試験より、取り込み量も集積時間もX線増感剤の候補薬剤とほとんど変わらないことを見出しているので、非常に有望な活性酸素除去剤を創成することができたと考える。 それゆえ研究は計画以上に進行していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に開発した、パラジウムおよび白金を導入したtrans-2置換グルコース連結ポルフィリンに、今年度開発した活性酸素除去剤であるMntrans-2置換グルコース連結ポルフィリンを共存させた阻害実験(細胞毒性試験)を行い、最適な活性酸素除去剤の濃度を調べる。 この結果をもとにX線増感試験を行い、パラジウムおよび白金を導入したtrans-2置換グルコース連結ポルフィリンのX線増感剤としての性能を調べる。
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次年度の研究費の使用計画 |
合成試薬 35万円、細胞培養用試薬 15万円、旅費 5万円、英文校正費 5万円
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