研究課題/領域番号 |
23750195
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研究機関 | 岐阜薬科大学 |
研究代表者 |
平山 祐 岐阜薬科大学, 薬学部, 助教 (10600207)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 生体関連化学 / 分子プローブ / MRI / イメージング / in vivo |
研究概要 |
本研究は生体内の腫瘍組織における特に低酸素領域を非侵襲的に検出、可視化できる新規なイメージングプローブ分子を開発することを目的としている。そのストラテジーとしては以下の2つである。1.高いT1緩和能を持つガドリニウムの錯体を、T1緩和能消去能を有する超磁性鉄ナノ粒子(SPIO)と低酸素領域で特異的に切断されるリンカーで結合させることで、低酸素領域のみでガドリニウムによる高いT1シグナルが見られるようになる。2.フッ素原子を含む化合物をガドリニウム錯体と上記の低酸素領域で切断されるリンカーで結合させることで、リンカー切断前はガドリニウムの常磁性効果によってフッ素原子のシグナルが抑制されているが、リンカー切断後に19FのMRシグナルが回復するというものである。つまり、上記2つの計画においては低酸素解離性リンカーが成否を握っている。本年度においてはこのリンカー部分の開発に注力した。リンカー部位にはトリスピリジルメチルアミン(TPA)コバルト(III)錯体が非可逆的な還元応答を示すことを利用した。外部配位子として用いた各種ヒドロキサム酸誘導体を有するコバルト-TPA錯体のその酸化還元活性を調べたところ、今回調べたすべての錯体において常酸素環境下では安定に存在し、低酸素領域での応答性が期待できる結果が得られた。この結果をもとにリンカー部位を設計し、研究計画通り各末端にガドリニウム錯体とSPIOを導入したGd-CoTPA-SPIO、およびガドリニウム錯体とフッ素原子を導入したGd-CoTPA-Fを設計し、実際に合成に着手した。現在、Gd-Co-TPA-Fはその合成を達成し、試験管内において低酸素下、還元剤を添加することで19Fのシグナルが増大する様子を観測している。一方、Gd-CoTPA-SPIOについてもほぼ合成を達成しており、随時各種測定を実施していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画の当該年度においてはプローブ分子の合成、およびその構造最適化が目標である。まず、コバルト錯体を用いた低酸素解離性リンカーの作成にあたり、各種外部配位子を有するコバルト錯体を合成した。これらについて電気化学的測定を行い還元電位を測定したがそれほど大きな差は見られなかった。これらの知見をもとに本コバルト錯体をリンカーとして使用し、MRシグナル制御部位であるガドリニウム、SPIO、およびフッ素原子を導入したプローブ分子へと展開した。合成段階では2つの金属錯体を結合させた構造を有するため精製操作等に困難を伴ったが、フッ素を用いたプローブについては合成を達成し、かつ試験管内での評価を行った。また、SPIO導入プローブについてはナノ粒子の精製に時間を要したが、現在、ガドリニウムとSIPOを結合させる段階まで進行しており、合成は最終段階である。以上のことから、本研究で提案した両プローブの合成・評価について当初の計画通り進行している。
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今後の研究の推進方策 |
まず、現在進行中であるSPIO型プローブ、Gd-CoTPA-SPIOの合成を達成する。次に、Gd-CoTPA-SPIOおよびGd-CoTPA-Fそれぞれについて、低酸素環境下において還元によるリンカー解列挙動を各種分光学的測定により調べ、その反応速度、およびNMRシグナルのON/OFFを調べる。これらプローブ分子については、低酸素環境下、コバルトが還元されることにより配位環境が変化するため、紫外可視吸収スペクトル測定によって低酸素下での解離挙動を確認できる。また、Gd-CoTPA-Fについては19F-NMR測定によりそのシグナル応答を簡便に検出することができるため、実際に設計したコバルト錯体部位が低酸素解離性リンカーとして機能し、19F-MRシグナルのスイッチングが起こっているどうか知ることができる。次に、低酸素環境下で培養した細胞ライセート中での各プローブ分子の機能をNMR測定および紫外可視吸収スペクトル測定にて評価する。必要に応じてリンカー部位の構造、シグナル部位の構造を最適化し、より応答性、安定性のよいものへと改良していく。細胞ライセート系での機能が確認できた後、MRファントムイメージングおよびマウスを用いたMRイメージングへと展開する。MRファントムイメージング、およびマウスのMRイメージングにおいては米国ジョンズホプキンス大学のKato教授に装置面での協力を仰ぐ。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度においては合成の最適化に必要なガドリニウムを含む試薬の購入、また、機能評価に必要な重水素化溶媒、および細胞実験用試薬の購入に充てる予定である。また、低酸素環境下におけるプローブ分子の応答性および反応速度を紫外可視吸収スペクトル測定による解析を行うため、ユニソク社製分光用クライオスタットCoolSpeK UV/CD USP-203-Bの購入を予定している。MRイメージング実験は米国ジョンズホプキンス大学へと研究代表者もしくは学生を派遣して遂行するため、その派遣費に使用する。さらに、本研究の成果発信のため、各学会への参加旅費、および学術雑誌投稿費に充てる予定である。
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