本研課題では生体内の腫瘍組織における特に低酸素領域を非侵襲的に検出、可視化できる新規なイメージングプローブ分子を開発することを目的とし、研究計画書に従い以下の2つのストラテジーで開発を行なった。 1.高いT1緩和能を持つガドリニウムの錯体を、強力な緩和消去能を有する超磁性鉄ナノ粒子(SPIO)と、低酸素領域で特異的に切断されるリンカーにより結合することで、低酸素領域のみでガドリニウムによる高いT1シグナルが検出されるようになる。 2.フッ素原子を含む化合物をガドリニウム錯体と上記の低酸素領域で切断されるリンカーを用いて結合することで、リンカー切断前はガドリニウムの常磁性効果によってフッ素原子のシグナルが抑制されているが、リンカー切断後にフッ素のMRシグナルが回復する。 本研究においてはまず、トリスピリジルメチルアミン(TPA)コバルト(III)錯体が非可逆的な還元応答を示すことに着目し、この分子をリンカーとして利用した。各末端にガドリニウム錯体とSPIOを導入したGd-CoTPA-SPIO、およびガドリニウム錯体とフッ素原子を導入したGd-CoTPA-Fの合成を行なった。前者については当研究期間内においてその前駆体の合成を達成したものの、測定には至っていない。後者については目的化合物の合成を達成し、試験管内において還元剤を添加した際、低酸素選択的にフッ素のMRシグナルが増大する様子を観測することに成功した。一方、低酸素解離性リンカーの開発段階においてN-オキシド型化合物が鉄(II)イオンに対して選択的に脱酸素化を受ける事実を見出し、これを鉄(II)イオンの検出プローブへと展開することに成功した。
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