研究課題/領域番号 |
23750198
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
高田 忠雄 兵庫県立大学, 工学研究科, 助教 (60511699)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | DNA / 超分子 / 発光 / 電子移動 / ナノデバイス |
研究概要 |
本研究では、ペリレンジイミド誘導体(PDI)をリガンドに用い、DNA内部に導入した疎水空間を利用してPDIをDNA上に配置することを行うとともに、空間に結合したPDI誘導体の光化学的性質について調べた。スペーサー分子(dS)を用いて、平面分子が結合できる疎水空間を持つDNAを作製した。自己会合性が強いPDIをリガンドとして用い、PDIの吸収スペクトル変化から疎水空間へのPDIの結合について調べた。疎水空間を有するdS-1およびdS-2を存在させた場合においてのみ有機溶媒中で観測されるPDIモノマーと一致する吸収スペクトルが観測され、スペクトル変化の滴定実験から、疎水空間に対して一つのPDI分子が特異的に結合することが分かった。次に、空間に結合したPDIの発光スペクトルを観測した。PDI(X=H)では疎水空間を持たないdS0および近傍にGが存在するdS-1ではPDIは発光をほとんど示さず、Gが離れたdS-2のときに発光が見られたたことから、Gで強く消光され、Aで弱く消光されることが分かった。同様に、PDI(X=OR)においてもGによって大きく消光されるが、dS-2においては強い発光が観測され、置換基導入によって電子受容性が弱められることで電子移動消光が抑えられることで強い発光を示すことが分かった。以上の結果から、DNAをテンプレートとすることで機能性有機色素の一つであるPDIを一次元上に自在に配列することが可能であり、PDIの電子状態を調節することでDNA分子の光輸送性・電子輸送性を制御できることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
DNA上に分子を集積・配列するための簡便な手法の確立を目的とし、DNA内部に人工的に創り出した疎水空間を利用した機能分子の位置特異的な結合および会合体形成について調べた。塩基部を持たないabasic siteの類似体であるスペーサー分子(S)を用いて、平面分子が結合できる疎水空間をDNA内部に導入した。自己会合性が強いペリレンジイミド(PDI)を結合分子として用い、PDIの吸収スペクトル変化を観測することで疎水空間へのPDIの結合について調べた。疎水空間を有するDNAを存在させると、有機溶媒中で観測されるPDIモノマーと完全に一致する吸収スペクトルが観測された。DNA濃度を一定にしてPDIを加えてスペクトル変化を観測した結果、疎水空間に対して一つのPDI分子が特異的に結合していることが分かった。また、スペーサーSの数を変えたところ、空間サイズに応じて吸収が短波長シフトするスペクトルが観測され、空間内でスタックした会合体を形成していることが示された。 共役π電子系の分子として、強い電子受容性を有するナフタルジイミド(NDI)と電子供与性を有するジアルコキシナフタレン(DAN)をペアーとした電荷移動錯体を用いることにした。合成したNDIおよびDANを電荷移動錯体のペアーとして、吸収スペクトル測定を用いて空間内における錯体形成の観測を行った。結合空間を持つDNAとNDIを1:1で存在させた溶液中にDANを加えたところ、NDI/DANの電荷移動錯体に帰属される550 nmに吸収極大を示すブロードなスペクトルが観測された。結合空間を持たないDNAを用いた場合は全く吸収が観測されないことから、電荷移動錯体がDNA内部の空間内において選択的に形成されることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
既存の設備と作製済みサンプルを用いて基礎的な実験を行うことができたこと、また予定していたデバイス作製と評価への実験まで至らなかったため、結果として初年度の予算に残額が生じた。翌年度の研究費と合わせて今後は予定通りデバイス評価に関わるサンプル作製・設備導入に使用する計画である。具体的には、疎水空間と機能分子の設計に関する研究を重点的に進める。選択的に空間に結合し、DNAを大きく安定化する複合体を探索するとともに、空間内での分子の配向、分子間の相対的な配向、またその物性を各種分光法を用いて検討する。また、これらの分子を用いた一次元・二次元分子配列および構造体作製を行う。さらに、機能分子の配列による機能発現とデバイス作製へと研究を展開する計画である。また、PDI以外の分子の集積、異なるDNA構造を用いた分子集積も合わせて検討する。PDIを一次元に配列させたDNA複合体を作製し、その光物性および電気的特性を詳細に調べ、DNAを用いた分子ナノデバイスへの応用を試みる計画である。
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次年度の研究費の使用計画 |
種々の置換基を持つ機能分子およびDNA内部の疎水空間の設計を行うため合成関係の実験が中心となるため、有機合成に研究費を使用する計画である。結合評価等を行うためのDNAサンプル合成のための核酸合成試薬の購入経費および実験消耗品経費を計上している。DNAデバイス作製を行う計画であるため、電極購入および設備備品として光電気化学測定実験用の光源購入に研究費の一部を当てる計画である
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