研究概要 |
本課題では、「組換え大腸菌による物質変換技術」と「有機化学的手法」を組み合わせることにより、高効率的・系統的なカルバ糖合成法を確立することを目指して研究を進めている。本目的のために、平成23年度は3つの課題を検討した。 (1) DOIの有する4つのエクアトリアル結合のヒドロキシ基の部分保護反応を確立するために、DOIジメチルケタール体のアシル化反応(アセチル化、ベンゾイル化、ピバロイル化)を検討した。その結果、その嵩高さのために比較的反応速度の遅いピバロイル化反応の制御がもっとも容易く、部分保護反応に適していることが判明した。具体的には、10当量のピバロイルクロライドを用い0℃にて反応を行うことで、一挙にジピバロイル体とトリピバロイル体を併せて7種類合成できることがわかった。また、ピバロイルクロライドを5.5当量、反応温度を-20℃にすることで、1,3-O-ジピバロイル体を収率76 %で合成できた。その際、他の3種類のジピバロイル体も同時に得られることがわかった。一方、ピバロイルクロライドを1当量、-10℃にて反応を行うと、3種類のモノピバロイル体が合成可能であった。これらの結果より、DOIのピバロイル化反応が、1位、3位、2位、4位の順番に進行することを見出せた。 (2) 上記(1)の反応で主生成物として得られる1,3-ジピバロイル体を原料に、4位、若しくは2位に遊離のヒドロキシ基をひとつだけ有するDOI保護体を合成し、CsOAcによるヒドロキシ基の反転反応を試みた。その結果、相当する2-epi-DOI誘導体と4-epi-DOI誘導体の合成を達成した。 (3) 上記(2)より得られるそれぞれの誘導体より、良好な収率にてカルバ-β-D-ガラクトース(10%, 13工程)とカルバ-β-D-マンノース(18%, 12工程)の合成を達成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画において、平成23年度は、(1) DOIの有す4つのヒドロキシ基の位置選択的部分保護反応の検討、(2) DOIの2位と4位のヒドロキシ基の反転反応、(3)カルバ-β-D-ガラクトース、カルバ-β-D-マンノース、およびカルバ-β-D-ManNAcの合成の3つの課題を予定していた。 (1)に関しては、DOIが有する同レベルの反応性を示す4つのヒドロキシ基に対するピバロイル化反応を精査することにより、1,3-O-ジピバロイル体を76%の収率にて合成できることを見出し、かつそれ以外に9種類のピバロイル部分保護体(1-O-Piv, 3-O-Piv, 4-O-Piv, 1,2-O-Piv, 1,4-O-Piv, 2,3-O-Piv, 1,2,3-O-Piv, 1,2,4-O-Piv, 1,3,4-O-Piv)の単離に成功した。 (2)に関しては、主生成物である1,3-O-ジピバロイル体を1,2,3-O-トリピバロイル体へと変換し、その後、反転反応により87%の収率にて4-epi-DOI誘導体を合成した。また2-epi-DOI誘導体の合成は、1,3-O-ジピバロイル体の有する2位ヒドロキシ基の反応性が4位よりも高いことを利用して、2位選択的にトリフレート化、4位ヒドロキシ基のアセチル化、2位の反転反応の3段階の反応を確立した(56%)。 (3) に関しては、効率的、かつ系統的なカルバ-β-D-ガラクトースとカルバ-β-D-マンノースの合成ルートを確立し、その合成を達成した。カルバ-β-D-ManNAcの合成は現在検討中である。 以上のように、本課題は、ほぼ計画通りに進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度にDOIから合成した種々の部分保護体を原料として各種カルバ糖の合成を試みるとともに、カルバ糖を糖鎖末端部分へ組み込む手法を検討する。平成24年度は、以下の3つの課題を検討する。 (1) 平成23年度に合成できた部分保護体(1,2-O-ジピバロイル体、1,3-O-ジピバロイル体、1,4-O-ジピバロイル体、2,3-O-ジピバロイル体)を用いて、二カ所のヒドロキシ基を同時に反転する反応を検討し、相当するカルバ糖の合成を試みる。 (2) カルバ-β-D-マンノースの合成ルートにおけるヒドロキシ基の反転反応の際に、求核試薬としてアジ化ナトリウムを用いることで、カルバ-β-D-N-アセチルマンノサミンの合成を検討する。併せて、求核試薬に亜硝酸カリウムを用いて2位ヒドロキシ基を反転した後に、さらにアジ化ナトリウムによる反転反応を行うことで、カルバ-β-D-N-アセチルグルコサミンの合成も検討する。 (3) もっとも合成が容易なカルバ-β-D-グルコースを大量合成して、カルバ糖を糖鎖に組み込む手法を検討する。カルバ糖に脱離基を組み込み、糖鎖を求核試薬として反応させる手法と、糖鎖に脱離基を組み込み、カルバ糖を求核試薬として反応させる手法の両方を検討する。本反応は基質の反応性が乏しいことが予想されるため、マイクロウェーブ反応装置を利用する予定である。これらのモデル化合物による知見をもとに、ヒト型擬似糖鎖の合成に着手する。
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