研究課題/領域番号 |
23750211
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山田 裕貴 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30598488)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | リチウム電池 / 有機電解液 / 電位窓 / 溶媒和 / 黒鉛電極 / インターカレーション |
研究概要 |
リチウムイオン電池の長寿命化や高電位正極材料の使用による高エネルギー密度化のため、電気化学安定性の高い(電位窓の広い)電解質材料の開発が最重要課題の一つとなっている。本研究では、新たな電解質系として高濃度のリチウム塩を含む有機溶液に着目した。平成23年度はカーボネート系、エーテル系、ニトリル系溶媒を中心に検討を行い、概ね3モル濃度以上のリチウム塩を含む溶液が酸化側と還元側の両方で著しい電気化学安定性を発現することを見出した。具体的には、3.2モル濃度のリチウム塩を含む1,2-ジメトキシエタン(DME)溶液は低濃度のものと比較して、酸化分解電位が約0.5 V高くなることが分かった。さらに、低濃度DME溶液では不可能であった黒鉛への電気化学的リチウムイオン挿入脱離反応(リチウムイオン電池の負極反応)が3.2モル濃度DME溶液では可逆的に進行することを見出した。これにより、従来は電気化学的安定性の問題によりリチウムイオン電池電解液として使用が不可能と考えられていた安価なエーテル系溶媒が使用可能であることが分かった。ラマンスペクトルにより高濃度電解液中におけるDME溶媒分子の状態を解析した結果、全てのDME溶媒分子がリチウムイオンと配位状態にあり、フリーの溶媒が存在しないことが分かった。密度汎関数法によりDME溶媒分子の電子軌道エネルギー準位(HOMO, LUMO)を計算したところ、配位状態ではHOMOが大きく低下することが分かり、高濃度電解液の酸化安定性の起源となっていることを明らかにした。以上の結果は、国内学会で1件発表済であり、国際学会でも1件の発表が確定している。さらに、投稿論文を現在執筆中である。また、高濃度DME電解液の酸化・還元安定性を利用した新概念蓄電デバイス(新規空気電池)を考案し、2件の特許出願を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初は、酸化側もしくは還元側のどちらかでの電気化学安定性の発現を予想していたが、今回調製した高濃度のリチウム塩を含む1,2-ジメトキシエタン溶液では、酸化側及び還元側の両方で電気化学安定性を発現することを見出したため、当初の予想以上の成果が得られている。また、作製した電解液の酸化・還元安定性を利用した新概念蓄電デバイスの発案に至ったことも、当初の予定にない大きな研究の成果である。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度に行った1,2-ジメトキシエタンの高濃度電解液において、融点の低下が確認されているため、融点とリチウム塩濃度の関係やその発現機構について詳細に調べていく。また、1,2-ジメトキシエタン以外のエーテル系溶媒、スルホキシド系、スルホン系にも溶媒の対象を広げ、電気化学安定性の発現の可否およびその機構を調べる。さらに平成23年度の研究結果をもとに考案した、新概念蓄電デバイス(新規空気電池)の実現可能性を追究する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度の直接経費未使用分は次年度に繰り越す。平成23年度は広範な種類の溶媒探索を行う予定であったが、予想より早く適切な溶媒が見つかり、その溶液系に特化した研究を行ったため、当初の予定よりも必要経費は少額となった。次年度は対象とする溶液系を広げていくため、その購入費用として繰越研究費を使用する。また、新概念蓄電デバイス(新規空気電池)の研究も加速するため、その評価用の電極や関連材料の購入費用とする。
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