研究課題/領域番号 |
23750211
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山田 裕貴 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30598488)
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キーワード | リチウムイオン電池 / 有機電解液 / 電位窓 / 溶媒和 / 黒鉛 / インターカレーション |
研究概要 |
リチウムイオン電池の長寿命化や高電位正極材料の使用による高エネルギー密度化のため、電気化学安定性の高い(電位窓の広い)電解質材料の開発が最重要課題の一つとなっている。本研究では、新たな電解質系として高濃度のリチウム塩を含む有機溶液に着目した。 平成24年度は、前年度に異常な電気化学安定性を発現することを見出した1,2-ジメトキシエタン(DME)系高塩濃度溶液の詳細な機構解析と、その他のエーテル系、スルホン系溶媒群への展開を行った。3.2モル濃度のリチウム塩を含むDME溶液中で、従来不可能と考えられていた黒鉛へのリチウム挿入脱離反応が可能になった理由を解明するため、溶媒に加えてアニオンにも着目したラマンスペクトル解析を行った。その結果、このような高濃度溶液中では全ての溶媒及びアニオンがリチウムイオンと相互作用していることが明らかとなった。リチウムイオンとアニオン間の強いクーロン相互作用により、溶媒和状態のままリチウムが黒鉛層間に挿入する現象を抑制し、リチウムイオンのみの挿入が可能になったと考えられる。一方、放射光X線を用いた高濃度溶液の構造解析では、当初の狙いであったリチウムイオン周りの構造解析ができなかった。本研究を発展させ、高酸化耐性の電解液を開発することを目的とし、本来酸化耐性の高い溶媒であるスルホラン(SL)溶媒を用いた高リチウム塩濃度溶液を調製し、その電気化学特性を調べた。その結果、高濃度では、負極である黒鉛へのリチウム挿入脱離反応が可逆に進行することを見出し、高電圧のリチウムイオン電池用電解液として有望であることを示した。 以上の結果は、国内学会で2件(ともに口頭)、国際学会で2件(ともにポスター)発表を行った。さらに関連する論文を投稿・審査中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
酸化耐性が高く、還元耐性の低いスルホラン溶液で、著しい還元耐性の発現が確認され、これまで検討してきたエーテル系溶液よりも更に高電圧に対応できる電解液を開発することができた。現在、リチウムイオン電池の高電圧化が強く要求され、様々な高電圧可能な電極材料が提唱されているが、それに対応可能な電解液の開発が遅れている状況である。本研究の成果により、高電圧リチウムイオン電池の開発が、大きく進展する可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
概ね当初の計画通りに遂行する。今年度検討を行ったスルホラン溶液に加えて、酸化耐性は高いが還元耐性が低い様々な溶媒系に着目し、その高塩濃度化による還元耐性の向上の有無を調べる。良好な結果が得られたものについては、実際に高電圧リチウムイオン電池の電解液として使用し、その効果を調べる。放射光X線を用いた高濃度溶液の構造解析では、当初の狙い通りの解析ができず、ラマンスペクトルを用いた詳細な状態解析で対応する。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は、前年度に異常な特性を見出した溶液系についての詳細な検討を中心に行ったため、前年度に購入した試薬類で研究がほぼ完結し、研究費の使用が少なく、次年度に繰り越すことになった。次年度は、今年度新たに発見した高電圧電解液系について網羅的な検討を行うために、繰越研究費を使用する。
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