本研究課題「光誘導個体電気化学反応技術の確立」において、前年に引き続き、①光導電性と電気化学反応の調査、②反応生成物の電気的・化学的調査および③素子構造のモディファイに関する検討を行った。①については前年度途中に、不純物に起因した電流が問題となった。そこで、薄いセル中で3電極を工夫して配置することで、不純物に起因した電流と電極反応電流とを切り分けることが可能となった。これを用いて、一般的な蛍光分子の光照射による、酸化反応と還元を観測する測定系を構築することができた。 ②の反応生成物の調査においては、大きな進展が得られた。本題の硫化銀とフラーレンドープ低分子液晶からなる光電気化学反応セルにおいて、光照射下で外部電界を印加して得られた針状の反応生成物について分析を行ったところ、炭素のみからなる針状生成物と、銀のコアを有する針状生成物が得られていることが明らかとなった。これは、セル中での炭素化合物による針状結晶成長が光照射と電界によって生じることと、硫化銀層でフォトカレントにより生じた銀イオンの還元を介して銀による針状結晶が成長している、という2つの現象の存在を示唆するものであった。 一方、同時進行で進めいていた③の素子構造の検討についても大きな進展を得ることができた。前年度までに、表面金属膜での物質吸着に鋭敏なスペクトル変化を示す微細構造を開発していた。本年度では銀膜によるさらに高感度の構造を作製することができた。これは、この表面の銀層を硫化することで、銀イオンの酸化還元反応を光学スペクトル上で観察できる可能性を示唆する。また、さらに別の構造によるターゲット捕集型のメタルコート機能性多孔膜の開発にも成功しており(次項論文欄に記載)、本研究の電気化学反応系に泳動的吸着や選択的ターゲット捕集を利用したセンシング技術の開発が期待できる。
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