研究課題/領域番号 |
23750216
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
辛川 誠 大阪大学, 産業科学研究所, 助教 (80452457)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 有機半導体材料 |
研究概要 |
本研究では、有機半導体材料の化学構造と半導体極性に関する相関について研究するものである。具体的には有機化合物の末端構造、最低非占有分子軌道の準位とバルク状態での半導体特性の相関を明らかにしようとするものである。平成23年度は、末端構造の異なる新規化合物の合成に成功した。末端構造として、インドール誘導体をもとにπ共役を拡張させたイソインディゴ誘導体を選択した。イソインディゴ誘導体は二次元π共役平面を有し、半導体としての電荷輸送に寄与するπ平面間の重なり構造の構築に寄与するとともに、共鳴構造の点から末端にカルボニル気を含むことによるキノイド構造の形成が優位となる。特にキノイド構造の形成は、半導体の極性を決定する重要な要素であると本研究では仮定しており、その存在は重要である。一方で、対象となる末端構造にカルボニル基を持たない類似化合物についても合成している。これら末端構造を中心構造となるベンゾジチオフェン誘導体とカップリングさせることにより、新規な低分子化合物の合成に成功した。得られた化合物の紫外可視吸収測定から、これら化合物は可視域の吸収が広いことが示された。特にイソインディゴ誘導体を末端に有する化合物は250 nm ~ 750 nm付近までの可視全域に吸収が見られ、有機太陽電池材料としても適した性能を有している。理論化学計算の結果からは、これら化合物の最低非占有分子軌道はわずかな違いしかなく、トランジスタ素子における電極からの電荷注入において優位差は無いと考えられる。この条件下でそれぞれの化合物が異なる極性を示すことを確認するため、現在これら新規化合物の有機半導体特性評価を進行中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
末端構造の異なるいくつかの新規低分子有機半導体材料を合成し、基礎物性、デバイス作製・評価について検討している。分子軌道計算の結果からも本研究の目的である末端構造とエネルギー準位の差に関する条件を満たしたもので、有機半導体の本質に迫る結果が期待される。また、当初予定していた可視域における吸収よりも長波長まで吸収する材料が得られたことは、本研究を基にトランジスタだけでなく有機太陽電池への展開を早めるものである。有機トランジスタの性能としては、現時点で材料の純度が不十分であることから、今後向上することが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
p型・n型を効率よく切り替える末端構造を決定し、本研究を始めるにあたって得られた基礎的な実験結果やそれらを基にして考えられた仮定から、その機構について考察する。具体的には、平成24年度では末端構造を固定し、中心構造をそれに対し最適化する。中心構造は、縮環系でありながら溶液塗布を可能とする溶解性を確保する構造を模索する。目標は有機トランジスタにおいてp型・n型共に10-2 cm2 V-1 s-1台以上とする。この検討によりほぼ同じ化学構造でありながら、p型・n型の各極性を示す一対の溶液塗布可能な有機トランジスタ材料が創製され、新概念の確立に至る。
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次年度の研究費の使用計画 |
設備備品としては、有機合成用設備、高額な分析機器、電気測定装置は所属研究室および研究所所有のものが使用できるので平成24年度の備品計上は無し。消耗品費としては、電気特性評価用ホルダーは新規材料を用いたデバイスの測定用サンプルホルダーおよび試薬、基板、ガラス器具は有機合成用およびデバイス作製関連用として計上する。研究論文の掲載に伴う別刷り費と校正費を計上する。国内外旅費としては、研究の進捗度に応じて研究成果発表を行うための国内学協会講演大会への旅費および情報収集を主体とする研究会等への参加旅費を計上する。
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