本研究を通して、末端分子構造のわずかな違いにより、発現する極性が変化することが見出された。有機半導体は、p型、n型、両極性のそれぞれの特性が末端構造に関係する事を示唆するもので、電極に依存しない極性変化を示す。 平成24年度は、合成された化合物の分子軌道計算によるエネルギー準位計算とトランジスタ特性を比較した。その結果、最低非占有分子軌道 (LUMO)と最高占有分子軌道(HOMO)の差と極性には関連はなかった。すなわち、分子構造とトランジスタ基板との相互作用、分子自体の構造的特徴によって、その変化が惹起されている。 n型極性を示した材料は、そのLUMOレベルが、電界効果トランジスタに使用した金電極の仕事関数との間に約2eVの差があるにもかかわらず、電荷がLUMOへ注入されたという事を示す。これは末端基と電極の界面近傍において、末端基に導入したフッ素原子が電荷注入過程に影響したものではないかと推測される。フッ素原子は同様に本研究において合成された他の分子にも存在するが、中央との結合部分がベンゼンであるため、分子のねじれとLUMOエネルギーの局在化がその効果を抑制しているのではないかと思われる。n型を発現した分子は、末端基の酸素原子、中央部分との平面性を高めるチオフェンを介した結合によって、分子全体のキノイド構造への変化が生じ、n型特性発現に繋がったと考えられる。この結果は、末端に導入した元素、分子の平面性が半導体自体の極性を決定しているように思われ、逆言えば、正孔と電子は分子に注入される際、障壁の小さいものが優先され、それは分子の末端構造とその先の構造に影響されると考えられる。
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