低分子有機半導体には、耐酸化性に優れ、高いキャリア移動度を有するピセンを用いた。まず、溶媒として用いる液晶の相構造に与えるピセン添加の影響について、ネマチック(N)相及び分子配列の層構造を有するスメクチックC(SmC)相について検討を行った。それぞれの液晶相を発現する溶媒にピセンを添加して、示差走査熱量測定によって液晶相温度範囲を評価したところ、ピセンを添加すると、各相転移温度の低下度合は融点>SmC相-N相転移温度>N相-等方相転移温度の順となった。また、N相温度範囲は若干拡大したが、SmC相温度範囲は縮小傾向を示した。これより、ピセンはN相のような対称性が高い(配向性が低い)液晶相においては相構造を不安定化する効果は小さいが、対称性が低い(配向性が高い)結晶相やSmC相においては相構造を大きく不安定化することが明らかとなった。そして、N相を発現する液晶溶媒を用いてピセン薄膜の作製を検討し、溶液プロセスによるピセン薄膜の作製に世界で初めて成功した。さらに、トップコンタクト型の半導体デバイスにおいて、薄膜表面の平滑性は電極との接触性やデバイス性能に影響を与えることが予想されることから、薄膜の表面形状に与える液晶溶媒の効果を検討したところ、溶媒がN相を発現する温度で製膜すると、等方相を発現する温度で製膜した時に比べて、平滑な表面を有する薄膜を作製できることがわかった。さらに、適切な表面処理とパターニングを施すことにより所望の場所でのピセン薄膜作製を実現するとともに、作製したピセン薄膜がFETデバイスとして動作することを確認した。また、微小なしわ構造を用いることにより、薄膜内でのピセン結晶の成長方位を制御できる可能性があることを偏光顕微鏡観察により明らかにした。
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