研究課題/領域番号 |
23750233
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
會澤 純雄 岩手大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (40333752)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 層状複水酸化物 / カーボンナノスフィア / ドラッグデリバリーシステム / ナノ材料 / 無機工業化学 / 抗がん剤 |
研究概要 |
本研究課題で取り上げる層状複水酸化物(LDH)は,無機ナノ粒子の一つであり,多種多様なゲスト分子をLDH層間へ取り込むことが可能であり,取り込んだゲスト分子を徐放できる,層間のゲスト分子の安定性を向上させるなどの特徴をもっている.近年,LDHは薬剤や遺伝子のデリバリー材料として応用する研究が注目されている.今年度は細胞内へ輸送されやすいLDHの合成を目的とし,カーボンナノスフィア(CNS)を鋳型に用いた殻状LDHナノスフィア(LDH-NSP)の合成方法の確立ならびにその細胞毒性を検討した. はじめに鋳型となるCNSの粒子径の目標を100~200 nmと定め,CNSの合成条件を系統的に調べた.CNSの粒子径に及ぼす糖類水溶液濃度,反応温度,反応時間の影響を検討した結果,単分散で100~150 nmのCNSの合成条件を確立した.また,CNSと複合化するLDHの合成も検討し,通常の水溶液による共沈法では得られない,高分散かつ小粒子径のLDHを溶媒にメタノールを用いることで合成した.つぎに,ζ電位がプラスのLDHとマイナスのCNSをメタノールに分散,混合することで,静電的相互作用によりCNSをLDHで被覆したCNS-LDH複合体を得た.CNS-LDH複合体を焼成したところ,鋳型のCNSは除去され,粒子径が約200 nmのサンゴ状のLDH-NSPを得た.また,LDH-NSPは細胞毒性が低く,TEM観察結果からもエンドサイトーシスにより細胞内へ移行した様子を観察することができた.なお,予備実験として再構築法によるLDH-NSPへの抗がん剤の取り込みも確認した. 以上の結果,LDH-NSPの合成に成功し,LDH-NSPは細胞毒性が低く,細胞内へ移行していることから,細胞へ薬剤や遺伝子を輸送可能なナノ材料であることが示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,LDH-NSP合成に鋳型として必要なCNSの粒子径の制御ならびにメタノール溶媒を用いた小粒径LDHの合成に成功した.さらにCNSとLDHを複合化したCNS-LDHを焼成することでLDH-NSPの合成を試みた結果,本年度の目標であるLDH-NSPを得ることができたため,研究はおおむね計画通りに進展している. 細胞内への無機ナノ粒子の輸送は粒子径や形状に影響されることが予想され,焼成に伴うLDH-NSPの粒子形状の変化や殻状構造の一部崩壊も見られたため,前駆体であるCNS-LDHの複合化をより緻密な構造を構築できる反応条件を模索する必要がある.目標とするLDH-NSPの粒子径は200 nm以下であり,現状では200 nmのLDH-NSPを得ているが,さらに小粒径のLDH-NSPの合成も検討する予定である.また,水溶液中に分散した際のLDH-NSPの凝集ならびに細胞へLDH-NSPを添加する際,培地におけるLDH-NSPの分散性を改善する必要もある.一方,再構築法によりLDH-NSPへ抗がん剤である5-フルオロウラシ(5-FU)の取り込みを予備実験ではあるが確認できたことから,来年度は抗がん剤/LDH-NSPの細胞増殖抑制効果や抗がん剤の細胞への輸送効率について検討を行う予定である.
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の研究成果から,CNSを鋳型に用いLDH-NSPを合成することに成功し,LDH-NSPが細胞内へエンドサイトーシス経由で輸送されることを明らかにした.本年度は,抗がん剤としてこれまで申請者がLDHへの取り込み挙動を明らかにした5-フルオロウラシル(5-FU)を用い,LDH-NSPへの定量的な5-FUの取り込み挙動を調べ,5-FU/LDH-NSPの合成を検討する.さらに,5-FU/LDH-NSPの細胞毒性を調べ,その際,5-FU/LDH-NSPの粒子径が細胞内移行に及ぼす影響についても検討する予定である.また,CNS-LDHの焼成に伴うLDH-NSPの形状崩壊,粒子径の制御,培地への分散性の改善などは重要な課題であり,これらを解決するためにCNS-LDHの複合化条件,焼成条件の検討ならびにポリエチレングリコールなどによる表面修飾にともなう分散性の向上について検討を行う.
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次年度の研究費の使用計画 |
LDH-NSPおよび5-FU/LDH-NSPの合成試薬ならびに細胞毒性試験には,各種試薬,細胞,培地,実験器具などが必須である.とくに,細胞培養実験のプラスチック器具類,細胞毒性試験用のキット,蛍光プローブ試薬は大部分が使い捨てのため,研究を効率的に行うにあたり研究費を重点配分する必要がある.なお,細胞培養に必要な大部分の設備・備品(クリーンベンチ,インキュベータ,遠心分離機,マイクロプレートリーダーなど)は本学の共有機器を利用し,これらの共通機器の利用料に対しても配分する. 旅費については,無機層状化合物,粘土化合物ならびにDDSに関する,毎年開催される国内学会および数年毎に開催される国際学会への参加は,研究成果を発表する場として最適であり,最新の研究情報の収集ならびに他の研究者との議論・意見交換を行う場としても重要であるため,30%程度を目安に配分する予定である. LDH-NSPをドラッグデリバリー材料への応用を目的としており,なかでも脳内へのドラッグデリバリーは血液脳関門が存在するため非常に困難であることが知られている.そこで,次年度に使用する予定の研究費は,LDH-NSPの脳内へのドラッグデリバリー材料としての展開も視野にいれ,高額な血液脳関門の血管内皮細胞の購入に充てる予定である.
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